2017年11月24日金曜日

022 / 455 全電源喪失の記憶

10点満点で、7点。

福島第一原発事故の経緯を丁寧に追った本。「死の淵を見た男」よりも臨場感を感じた。
「死の淵を見た男」は吉田所長を中心に書かれているが、本書は時系列に様々な視点から書かれており、登場人物が多い。その分読みにくい点はあるが、それだけ多くの人物が関わっていたのだから仕方ないだろう。

当時原発では何が起こっていたのかを語る本の多くは、命がけで事故収束に挑んだ人々の活躍と葛藤をまざまざと描いている。本書はそれに加え、(敢えていうが)逃げた人、最後まで立ち向かわなかった人、突入その他をためらった人たちのことも丁寧に書いている。実名で登場しているから、証言した人たちも勇気は必要だったろうが、単なる英雄譚で終わらせないためにこういう視点もキチンと抑えておくことは重要だと思う。

現場作業者たちの視点が多く登場するので、実際に現場で何が起きていたのかはわかりやすい。吉田所長の視点では、どうしても実態あるいは全体像が見えてこない部分もあったが、本書ではかなりわかりやすく読める。

しかし色々読んできたけれど、どの本も共通して、官邸の介入については百害あって一利なしとしか思えない記述。総理が菅直人でさえなければ、もう少しマシな事態だったのではないかと思う。まあルーピーとか、当時の民主党には菅直人と同レベルあるいはさらに下を行く人材には事欠かなかったから、誰でも変わらないのかもしれないけれど。

臨場感あふれる筆致で書かれているだけに、唐突に収束しているのがよくわからない。吉田はじめ何人もが死を覚悟したあと、なぜか「悪いなりに安定している」状態になり、いきなり数日後の話になる。本当は何が起きていたのか、今でもわからないことはあるのだろうが、投げっぱなしで話をたたまれるのは非常に読後感が悪いのでマイナス。


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