2018年7月14日土曜日

009 / 464 勝ちすぎた監督

10点満点で、6点。

白河関を超えて、津軽海峡まで超えて真紅の優勝旗を北海道に持ち帰った、駒大苫小牧の香田監督について書かれた本。
故郷の佐賀で指導者になろうと思っていたら突然北海道に行けと言われ、環境以前にやる気の感じられない生徒たちを鍛え上げ、甲子園で惨敗し、そして初優勝から三連覇目前まで迫ったその足取りを追っている。著者はずいぶん香田について思い入れがあるようで、それを隠さずに書かれている。

熱いものが流れていて、全力で生徒にぶつかっていった監督だというのは伝わってくるが、いわゆる「悪い意味で体育会」の典型で、個人的には好きになれぬ。凄い人だとは思うが憧れないし、尊敬もしない。身近にいてほしくはないタイプ。それはなぜかというと、悪い意味で自分を曲げないし、上から押さえつけるというスタンスが徹底しているから。もちろん北海道では誰も取り組んでこなかった練習法を持ち込んだり、いいと思ったことは次々取り入れているという「方法論」についての柔軟性は持ち合わせているが、「信念」「哲学」については一切の妥協、歩み寄りを見せていない。確固たる信念を持つこと自体は悪いとは思わないが、それが他者から見て間違っていると思える場合、「聞く耳を持った上で曲げない」のと「聞く耳を持たない」のはぜんぜん違う。本書を読む限り、香田は後者。

だからこそ、同じ厳しい指導で生徒を率いてきた明徳義塾の馬淵監督だとか、あるいはラグビー伏見工業高校の山口監督と違い、全国優勝を味わったメンバーですら離れていく、という事が起こるのだろう。

高校野球の話だから、なおさら好きになれないのだろうな。
日本では、中学生や高校生が「野球を楽しもう」と思っても、それができる環境がまずないと言っていい。もちろんガチガチに甲子園を目指している学校ばかりではないだろうが、それでも草野球のように楽しく試合ができればいい、という相手とだけリーグを組むということはまずないし、学校を離れたらプレーできる環境すらない。必然的に、監督の方針に従えなくなったら、野球をやめるしかなくなってしまう。スポーツってもっと楽しんでいいものだと思うが、特に高校野球は、精神論や根性論がまかり通っている。

何よりも許せないのは、部内の指導者による生徒への体罰が問題になったあと、その生徒を守っていないこと。本人は今でも生徒と先生の関係を保っていると書いているが、その生徒は同級生の誰もに疎外され、あらゆる会合に呼ばれないどころか連絡先すら知られていない。体罰が問題になったのは生徒の父親が騒いだからであり、生徒本人はむしろ父親を詰ったと書いてあるが、そんな生徒が野球どころか仲間を失ってしまった、そのことに対するフォローがない。そもそもの原因が指導者にあるのだから、生徒が不利益を被らないように全力で動くべきだろう。

評価は高い本のようだが、感情移入ができずに読んだので、いい印象を持てなかった。


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008 / 463 甲子園が割れた日

10点満点で、5点。

今でも賛否両論を持って語られる、夏の甲子園で星稜高校の松井秀喜が明徳義塾高校に5打席連続敬遠された事件(あえてこう書く)について。
確か当時高専の1年だったけれど、実はリアルタイムでは知らなくて、2日ほど経ってから知ったような気がする。みんなが騒いでるのを見て、初めて何があったのかを知った。しかし既に、ニュース等で映像が流されることが減っていたので、本書を読んでから初めてYouTubeで映像を見た。

当時の報道は、ほぼ全て「アレはやりすぎ、正々堂々勝負するのが高校野球」という論調だった気がする。今でこそ勝利至上主義の弊害が語られ、あれに理解を示す意見を目にすることがあるけれど、まだ少数派だねえ。
本書はどういうスタンスで書かれているかというと、基本的に敬遠を養護するスタンス。まあそれはいいんだが、中立を装って書いているのにそのスタンスがまるで隠れていないのは、著者の筆力なのか。そもそも本書は、時系列も視点もぐちゃぐちゃに入り乱れて書かれており、非常に読みにくい。

本書を読む限り、当時の報道で語られていた「選手は勝負したがっていた、それでも監督の指示に逆らえないのが高校野球、選手が可哀想」という内容が、報道する側の主観で作られたものに過ぎなかった、という印象を受ける。明徳義塾の選手は馬淵監督に心酔していて(洗脳と言ったほうが良さそうだが)その指示に疑問は持っていないし、後悔もしていない。それを、誘導尋問のように言葉を引き出して、それを針小棒大に報道している。今ならすぐにネットで情報が拡散されるけど、当時はメディアが報道したらそれが全てだったからなあ。

当時も語られていたけれど、一度もバットを振らせてもらえなかった松井が、相手のことを一切非難していないのは純粋に凄い。それだけに、無邪気に批判した星稜の山下監督、そして高野連会長の牧野が出したコメントが痛い。特に牧野は、連帯責任と勝利至上主義に凝り固まった高野連という組織に責任を持つ立場のくせに、何らルールに抵触していないプレーを上から批判する、その態度は軽率を超えて愚かだと思う。

もっと力量のある書き手に掘り下げてほしかった。そういう本は既にありそうだけど。


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