10点満点で、5点。
今でも賛否両論を持って語られる、夏の甲子園で星稜高校の松井秀喜が明徳義塾高校に5打席連続敬遠された事件(あえてこう書く)について。
確か当時高専の1年だったけれど、実はリアルタイムでは知らなくて、2日ほど経ってから知ったような気がする。みんなが騒いでるのを見て、初めて何があったのかを知った。しかし既に、ニュース等で映像が流されることが減っていたので、本書を読んでから初めてYouTubeで映像を見た。
当時の報道は、ほぼ全て「アレはやりすぎ、正々堂々勝負するのが高校野球」という論調だった気がする。今でこそ勝利至上主義の弊害が語られ、あれに理解を示す意見を目にすることがあるけれど、まだ少数派だねえ。
本書はどういうスタンスで書かれているかというと、基本的に敬遠を養護するスタンス。まあそれはいいんだが、中立を装って書いているのにそのスタンスがまるで隠れていないのは、著者の筆力なのか。そもそも本書は、時系列も視点もぐちゃぐちゃに入り乱れて書かれており、非常に読みにくい。
本書を読む限り、当時の報道で語られていた「選手は勝負したがっていた、それでも監督の指示に逆らえないのが高校野球、選手が可哀想」という内容が、報道する側の主観で作られたものに過ぎなかった、という印象を受ける。明徳義塾の選手は馬淵監督に心酔していて(洗脳と言ったほうが良さそうだが)その指示に疑問は持っていないし、後悔もしていない。それを、誘導尋問のように言葉を引き出して、それを針小棒大に報道している。今ならすぐにネットで情報が拡散されるけど、当時はメディアが報道したらそれが全てだったからなあ。
当時も語られていたけれど、一度もバットを振らせてもらえなかった松井が、相手のことを一切非難していないのは純粋に凄い。それだけに、無邪気に批判した星稜の山下監督、そして高野連会長の牧野が出したコメントが痛い。特に牧野は、連帯責任と勝利至上主義に凝り固まった高野連という組織に責任を持つ立場のくせに、何らルールに抵触していないプレーを上から批判する、その態度は軽率を超えて愚かだと思う。
もっと力量のある書き手に掘り下げてほしかった。そういう本は既にありそうだけど。
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