2011年5月14日土曜日

019 / 385 7割は課長にさえなれません

10点満点で、5点。

「終身雇用の幻想」とサブタイトルにあるように、日本独自の人事制度として有名な(悪名高い?)終身雇用の弊害を、これでもかというくらいに書いている。

書いていることそのものは大きく間違っていないと思うし、問題点の指摘はいいと思うのだが・・・考察が浅くないか? 新書の限界なのかもしれないが、まるで中学生のレポートを読んでいるような感覚に襲われた。

終身雇用の弊害については、概ね正しいと思う。不景気でも人は切れない、年長者の収入は削れない、若者の収入を上げることはできない、新人を取ることができない・・・こう言った問題について、なにか手を打つ必要があるというのは同感だ。しかし、「なぜそういう制度になっているのか」に関する考察は、甘い。そして、「なぜこの制度を改革できないのか」についても。

著者は、現在の終身雇用は、労使一体になって作りこんだ制度だと主張している。そしてその現状維持に躍起になっている勢力、既得権益組として挙げているのが経団連、連合、共産党、社民党・・・と。派遣について、非正規社員について声高に主張しているものもいるが、彼らにしても正社員の権利が侵されることになると口をつぐんでしまう、と。経営側と労働者側を同列だと論じ、そこからあふれた者たち(非正規社員)との対立軸を描き出しているのは鮮やかだが、「それはそれで正しいのだ」ということには頭がまわっていない模様。

考えるまでもないことのはずなのだが、基本的には組織というものは、所属する者に対する利益を確保するために動く。経営者が企業の利益を考えるのは当然だし、労働組合が労働者の利益を考えるのも当然。そして、「労働組合に加入していない非正規労働者」は、「労働組合が守るべき対象ではない」ことは、当然の帰結としてわかる話だろう。そして、非正規労働者がたとえ組合を結成したとしても、圧倒的多数の正社員が占める連合(その他労働組合共同体)では発言力が弱い事は、これも当然のこととして理解できるはずだ。つまり、非正規労働者が声をあげるのならば、既存の枠組みから踏み出さないと無駄(あるいは非常に効率が悪い)のだ。それが分かっていないのだろうか。

それともうひとつ、年長者の収入を守るために、若者の収入が制限されているという理屈。それはそれで間違っていないのだが、「年長者は、本来受け取るべきだった収入を今得ている」という側面を忘れてはならない。元々の制度に欠陥があったというべきだが、それでも今年長者の収入を削ることは、「年長者の正当な権利を侵害する」ことにほかならないのだ。だからこそ、「若者の正当な権利を守る」こととの両立が難しいのだ。

この他にも、気になることはたくさんある。

・理工系ナメるな。新人でも、学校で学んだ知識は必要。むしろ出世するとマネジメント能力が重視され、専門知識の比率が下がってくる。知識と技術を持っている人材は、需要もある。
・非正規社員が地位を得るために、自分に投資しろ(勉強しろ、技術をつけろ)というのは精神論なのか? むしろ、「努力しないものは救わない」のは、今後の議論をするに当たり前提とすべきことではないのか? その上で、「どう努力すれば良いのか」を提案するのが、人事コンサルタントの仕事ではないのか?
・著者の提案に対する、ネガティブ面からの考察が全くないが、あえて省略したのか?
・現行制度のデメリットを上げるばかりでなく、メリットとのバランスを比較した上で議論すべきではないのか?
・そもそもこの程度の考察しかしていないで、人事コンサルタントを名乗ったり、あるいは政党で講義しているというのは本当なのか? コンサルタントはともかくとして、政治家はそんなに見る目がないのか?

繰り返すが、新書の限界なのかもしれない。本質的な議論を読みたければ、もっとしっかりした本(あるいは学術論文)を読む必要があるのかもしれない。
いずれにせよ、本書は警鐘を鳴らしてはいるが、それ以上の役には立たない。


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