2011年8月21日日曜日

024 / 390 戦場へのパスポート

10点満点で、6点。

軍事ジャーナリスト(戦場カメラマン)の著者が、戦場取材の現場を語った本。あとがきに、「戦場取材のノウハウは、フリージャーナリストにとっては企業秘密」と書いてあるが、本書を読む限りまさにそうなのだろう。ろくすっぽ海外に出たことがない身としては、旅行代理店で往復パックのチケットを買う以外に、どうやって海外に出ればいいのか(そしてなにより、どうやって帰ってくればいいのか)わからない。大体、入国審査で目的やら滞在場所やら期間やらを書くのに、どうやって「あっちの国が面白そうだから行ってみよう」とか動けるのか、さっぱりわからん。

著者は本来、兵士として戦場に出たかったようだ。日本人としてはかなり珍しい部類だろうね。しかし、「目が悪い」という理由で軍に向かないことを悟り、「せめて戦場に近づける仕事」と、紛争地での工事を請け負っている建築会社に入社する。酔狂というか、なんというか。
(どうでもいいが、友人が在籍したことのある会社だ)

それでも諦めきれず、フランス外人部隊を目指して退社。視力を理由に断られ、スペイン、アメリカとわたってなお挫折。仕方ないからとりあえず戦場にだけは行こうと中米に足を運び、そこでジャーナリストという職種に気づくという、相当の変わり種。しかしプレスカードを持っておらず、出版社の依頼状も持たないため、プレスカードを入手するところからして波乱万丈。

そんなドタバタを繰り返しながら、中米、アフリカ、欧州、中東、そして北朝鮮にまで足を運ぶ。元々が兵士志望だったせいか、兵器の危険性や生き延びるための知識などは豊富なようで、何度も危険に遭遇しながらも生還している。
(時折フィルムを没収されたりしているけど)

地雷原の恐怖、ジャングルの虫、諜報機関による逮捕(拷問まではされていないらしい)などなど、綺麗事ではない戦場の雰囲気がよく伝わってくる。

しかし、本書のターゲットって、幅が狭いだろうなあ。
軍事に興味がある人からややずれているし、政治的なことはあまり触れていないし。俺は面白いと思ったけれど、ストライクゾーンが狭い本だと思う。


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2011年8月15日月曜日

023 / 389 豚のPちゃんと32人の小学生

10点満点で、8点。

小学4年生から6年生の間、豚を育て、そして食肉センターに送るまでの「命の授業」をした記録。
考えさせることも多く、「良い授業」だとは思うが、「素晴らしい授業」だとは、手放しで言えないと感じている。

それは、この教育を主導した教師(本書の著者)の、確固たる意志が感じられないことによるものだと思う。難しい題材だけに、教師自身も悩みぬいたことは読み取れるが、それだけに覚悟なくして子供たちを巻き込んでしまったように思えてならない。

結果としては良い授業になったと思うが、それはあくまで結果論。展開次第では、子供たちに深い心の傷を負わすだけの授業になってしまったリスクも高かったと思う。何を考えさせるのかきちんと考え、道を外れそうになったらどうするのか、少なくとも指導者の側がぶれてはいけなかった題材だと思う。

生き物の命を奪い、食べるということについて深く教えることについては異論がない。必要だし、素晴らしいことだと思う。しかしそれだけに、取り扱いには注意が必要だとも思う。結果としてうまく行ったが、毎回こういくとは限らない。だからこそ、この授業は継続されていないのだろうな、とも思う。

どうでもいい話だが、俺は魚釣りが大好き。
家庭の事情により現在は行っていないが、事情が許せば毎日だって行きたい。
しかし、海釣りは大好きだが、川やダムなどの淡水はあまり好きではない。それは、釣った魚を食べるか否かによる。淡水魚だって食えるが、臭みがあってあまりうまいとは思わないからね。
命を相手にする遊びだから、命を奪う遊びだから、釣った魚は食べてやりたい。
本質的には同じ事なのかな。


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2011年8月13日土曜日

022 / 388 エレクトリックな科学革命

10点満点で、8点。

何気なく手にとった本だが、大当たりだった。
電気技術のうち、主に通信と無線、いわゆる弱電に焦点を当てている。照明はエジソンのエピソードでいくらか語られている程度、動力についてはほぼ触れていない。

技術そのものというよりも、その開発に貢献した科学者、技術者のエピソードを中心に語られている。電信技術の基礎を開発したヘンリー、その成果を掠めとったモールス。自らの知識と技術を惜しみなく伝えたヘンリーは最高の科学者として尊敬され、他人が開発した技術の特許をとって財産を築いたモールスは、引換に死ぬまで特許訴訟を抱え続けて尊敬されなかった。
(ヘンリーはインダクタンスの単位としても名前を残している)

このほかもエジソンを始めとして、著名人のエピソードは、なかなか面白いものが多い。多くの場合、知名度の高い人物については、従来のイメージを覆すような悪いエピソード(エジソンは他人のジャマをすることで財産を創り上げたとか、ショックレーはトランジスタ発明の名声を奪い取り、彼を嫌った技術者たちによってシリコンバレーが創られたとか)が紹介されている。反面、電気技術では重要な貢献をしながら、一般的な知名度の低い人物については、親しみの持てるエピソードを多く取り上げている。

解説は丁寧なので、電気に対する知識が少なくとも、読むことについてはあまり支障がないだろう。
それでいて実はかなり深い解説をしていたりするので、真剣に読めばさらに得るものも多い。電気技術について語られた本で、電気と神経の関係にまで語った本なんてそう多くはないだろう。異色の本。


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2011年7月5日火曜日

021 / 387 奇跡の教室

10点満点で、7点。

灘高が「進学校の滑り止め」から「東大合格者日本一の高校」に上り詰めたとき、生徒たちの基礎学力を創り上げることに専心した、エチ先生こと橋本氏の授業について。銀の匙という一冊の小説を、三年かけて丁寧に読み込んでいくというその授業は、生徒たちの「考える力」を大きく養っていった。

教え子には錚々たる人物が多く、皆がみな橋本氏を尊敬しきっている発言をしていることからも(そういう発言を選んで収録したのだろうが)、いかに充実した授業をしていたのか伝わってくる。惜しむらくは、全体の流れが見えてこないで、断片的なエピソードばかりになってしまっていることか。

物事の本質を考える、興味のあることを追求する。橋本氏の授業には、ファインマンさんの父親に通じるものがありそうだ。もっと深く知りたいが、適当な本はないかな。


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2011年5月28日土曜日

020 / 386 核を売り捌いた男

評価の難しい本。とりあえず、10点満点で6点。

パキスタンのカーン博士といえば、数年前結構ニュースで耳にした名前。核不拡散体制を崩壊させ、核技術や核物質、そして核兵器も含んだブラックマーケットを構築した人物。彼がなぜ核開発を志し、パキスタンの核武装だけで満足せずに核市場を創り上げたのか、丁寧に追っている。

・・・のだが、いかんせん読みにくい。
ただでさえ、人名・国名・組織名・役職名など、聞きなれない固有名詞が大量に出てくる。しかも同名の人物も多く、誰がどの立場でどういう行動をしているのか、読んでいてさっぱりわからない。せめて主要登場人物一覧でも付いていればよかったのだが、それもない。メモをとりながら読まなければ、話についていけなくなる。結局少しずつ読み、読破に一ヶ月かかってしまった。

思い返してみると、なぜカーンがブラックマーケットを構築したのか、その動機はどこにあったのか、分からなくなってしまった。本文中に記載があったのかどうかも覚えていない。中盤以降は、パキスタン政府にとってもアンタッチャブルな存在にまで上り詰めたカーンを、世界(主にアメリカ)がどうやって追い詰めていくのかにページが割かれているが、ここでもパキスタンはカーンを守っているのか疎んでいるのか、わからない。偏に俺の読解力の不足か。

ポイントとしていくつかつかんだのは、

・パキスタンとインドの対立は深刻。核開発は、バングラデシュの独立から始まった。
・イスラム社会は、自由主義社会とは完全に違うロジックで動いている。価値観も、倫理観も。
・パキスタンの核武装は、国家の対立を超えて「イスラムの核獲得」という価値があった。
・西側は、パキスタン(カーン)の力をなめていた。危険水域に入ったことにも気づかず、泳がせすぎた。
・カーンはどうやら、相手を選ばずに核技術の取引をしていた模様。
・北朝鮮は重要な顧客であったようだが、全容は未だわからない。
・9.11テロとイラク戦争は、カーンのネットワークを広げる一因となった。
・イラクの末路を見た、カダフィの武装解除という決断がなければ、カーンは今でも暗躍していたかもしれない。
・本書の山場は、上記のリビア武装解除について。この部分は読みやすく、面白い。
・カーンは、現在でも一部では英雄視されている。

メモをとりながら、腰をすえて読むと又違う発見があるだろう。


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2011年5月14日土曜日

019 / 385 7割は課長にさえなれません

10点満点で、5点。

「終身雇用の幻想」とサブタイトルにあるように、日本独自の人事制度として有名な(悪名高い?)終身雇用の弊害を、これでもかというくらいに書いている。

書いていることそのものは大きく間違っていないと思うし、問題点の指摘はいいと思うのだが・・・考察が浅くないか? 新書の限界なのかもしれないが、まるで中学生のレポートを読んでいるような感覚に襲われた。

終身雇用の弊害については、概ね正しいと思う。不景気でも人は切れない、年長者の収入は削れない、若者の収入を上げることはできない、新人を取ることができない・・・こう言った問題について、なにか手を打つ必要があるというのは同感だ。しかし、「なぜそういう制度になっているのか」に関する考察は、甘い。そして、「なぜこの制度を改革できないのか」についても。

著者は、現在の終身雇用は、労使一体になって作りこんだ制度だと主張している。そしてその現状維持に躍起になっている勢力、既得権益組として挙げているのが経団連、連合、共産党、社民党・・・と。派遣について、非正規社員について声高に主張しているものもいるが、彼らにしても正社員の権利が侵されることになると口をつぐんでしまう、と。経営側と労働者側を同列だと論じ、そこからあふれた者たち(非正規社員)との対立軸を描き出しているのは鮮やかだが、「それはそれで正しいのだ」ということには頭がまわっていない模様。

考えるまでもないことのはずなのだが、基本的には組織というものは、所属する者に対する利益を確保するために動く。経営者が企業の利益を考えるのは当然だし、労働組合が労働者の利益を考えるのも当然。そして、「労働組合に加入していない非正規労働者」は、「労働組合が守るべき対象ではない」ことは、当然の帰結としてわかる話だろう。そして、非正規労働者がたとえ組合を結成したとしても、圧倒的多数の正社員が占める連合(その他労働組合共同体)では発言力が弱い事は、これも当然のこととして理解できるはずだ。つまり、非正規労働者が声をあげるのならば、既存の枠組みから踏み出さないと無駄(あるいは非常に効率が悪い)のだ。それが分かっていないのだろうか。

それともうひとつ、年長者の収入を守るために、若者の収入が制限されているという理屈。それはそれで間違っていないのだが、「年長者は、本来受け取るべきだった収入を今得ている」という側面を忘れてはならない。元々の制度に欠陥があったというべきだが、それでも今年長者の収入を削ることは、「年長者の正当な権利を侵害する」ことにほかならないのだ。だからこそ、「若者の正当な権利を守る」こととの両立が難しいのだ。

この他にも、気になることはたくさんある。

・理工系ナメるな。新人でも、学校で学んだ知識は必要。むしろ出世するとマネジメント能力が重視され、専門知識の比率が下がってくる。知識と技術を持っている人材は、需要もある。
・非正規社員が地位を得るために、自分に投資しろ(勉強しろ、技術をつけろ)というのは精神論なのか? むしろ、「努力しないものは救わない」のは、今後の議論をするに当たり前提とすべきことではないのか? その上で、「どう努力すれば良いのか」を提案するのが、人事コンサルタントの仕事ではないのか?
・著者の提案に対する、ネガティブ面からの考察が全くないが、あえて省略したのか?
・現行制度のデメリットを上げるばかりでなく、メリットとのバランスを比較した上で議論すべきではないのか?
・そもそもこの程度の考察しかしていないで、人事コンサルタントを名乗ったり、あるいは政党で講義しているというのは本当なのか? コンサルタントはともかくとして、政治家はそんなに見る目がないのか?

繰り返すが、新書の限界なのかもしれない。本質的な議論を読みたければ、もっとしっかりした本(あるいは学術論文)を読む必要があるのかもしれない。
いずれにせよ、本書は警鐘を鳴らしてはいるが、それ以上の役には立たない。


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2011年5月6日金曜日

018 / 384 頭脳勝負

10点満点で、8点。

将棋を、数学・パズルに分類していいのかな。

史上4人目の中学生棋士としてデビューした、渡辺明永世竜王の著書。
(本書執筆時点では、永世竜王の称号は獲得していないが)

ボナンザとも戦った著者が、将棋の魅力、将棋の奥深さ、そして将棋を見る楽しみについて語っている。スポーツと違い、頭脳勝負の将棋は「知らないと楽しめない」箇所が多いが、そんなことはないんですよ。見て楽しめるものですよ、と語りかけている。

とはいえ、将棋を楽しむにはせめて、局面の有利不利がわかることが必要。もちろんどこまで先を読んで判断できるかということがそのまま棋力になるのだが、一目でわかる局面くらいは判断したい。どういう見方をすればいいのか、本書にはそのとっかかりが書いてある。駒の動かし方すら怪しい俺には、本書の丁寧な解説でもまだわからないところがとても多いのだが・・・

プロになるまでのハードル、収入、女流棋士やアマチュアとの実力差、封じ手の攻防といった話題から、「和服は高いからスーツのほうがいい」といった話まで、将棋を身近に、そして一歩深く楽しむための導入書。将棋そのものの入門書ではないので、興味のある人が読み物として手に取り、そして次に将棋入門書を手に取る、という位置づけだろう。

巻末には将棋のルールと詰将棋も載っていて、ややお得。


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