2012年3月11日日曜日

004 / 395 スエズ運河を消せ

10点満点で、9点。

マジシャンに不可能はない。無から有を作り出し、物体を瞬時に移動させ、時には消してみせる。
その技術は決してステージの上に限られたものではなく、戦場でも有効なのだと証明してみせた男たちがいた。

ジャスパー・マスケリンは先祖代々のマジシャン。愛国心に駆られた彼は、第二次世界大戦への従軍を志願するが、「軍がほしいのは38歳のマジシャンではなく、若くて体力がある即戦力の兵士」とにべもなく断られてしまう。怯むことなく従軍を訴え続け、ついに軍属となった彼は、マジックギャングを率いて戦場で奇跡を起こしてみせる。

その舞台は砂漠、エジプト。観客はロンメル。太平洋戦争で最強と言っても過言ではない将軍、「砂漠の狐」を向こうに回し、マスケリンは見事なトリックを演じてみせる。

砂漠に突如として軍隊を出現させ、アレクサンドリアの港を一夜にして1.5kmも移動し、スエズ運河を爆撃機から消してみせる。実戦を経験しないことに負い目を感じたマジックギャングたちは、わずか3隻の高速艇で港を襲撃し、大艦隊による攻撃と誤認させることすらやってのける。なんと痛快なこと!

当然戦場の話であるから、被害はある。奇跡の秘密を暴こうとして命を落すものもいれば、敵の攻撃で仲間を失ったりもする。しかしギャングたちは、物理的困難も精神的ダメージも乗り越えて、奇跡を起こし続ける。

実は本書の記載にはかなりの誇張や、捏造されたエピソードも混ざっているらしい。しかし、エンターテイナーの、それもマジシャンのエピソードに厳密性を求めるのは、野暮というものだろう。


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