2012年3月4日日曜日

002 / 393 FBI美術捜査官

10点満点で、7点。

著者は、盗難された美術品を追う元専門家。FBIではその歴史は浅く、美術犯罪チームができたのは2004年とあるから、まだ10年も経っていない。そして人の入れ替わりも激しく、専門家が育つ環境ではない。
チームが出来る前から、美術品操作を手がけてきた著者の回想録。

著者も書くように、美術品犯罪やその奪回は、映画ではスリリングに劇的に描かれている。しかし実態は派手さに欠け、アメリカでは美術品の盗難が連邦犯罪にあったのもごく最近。それまでは、州警察の操作範囲を出なかったとか。フランス(だったか)でも最長で3年の懲役しか課すことが出来ず、美術品の盗難とは比較的リスクの小さな大型犯罪だった。ただひとつ、奪った美術品を売ることが難しい、という点を除いては。

美術操作の大原則は、「奪回が第一、犯人逮捕は二の次」ということ。著者は語る。「美術品の盗難や損傷は、人類に対する犯罪である、歴史に対する犯罪である」と。遺跡で発見された財宝は、盗掘者に持ち出された時点で、歴史家の検証を受けるチャンスを永遠に失ってしまう。どういう状態で置かれ、周囲に何があったのか、誰も知ることができなくなってしまう。

こういった、取り返しのつかない事態を避けるために、金で買い戻せるものは金をも使う。著者の書きぶりでは、最終的には犯人を逮捕して金も取り返していることが多いようだが、それでも捜査の過程で金を払うことには躊躇していない。我々が想像する闇市場とは異なり、売買相場が市場価格よりも安い、ということもあるのだろうが。

著者の潜入捜査に、派手さはあまりない。もちろん飛び交う金額は高額だが、スリリングなシーンは殆ど無い。巧妙に相手が犯罪を自覚していることを告白させ(裁判のためだ)、品物がほんものであることを見極めて、合図と同時に捜査官が突入するだけ。ここに至るまで、いかに相手に自分のことを信頼させるか、そして逮捕と品物奪回が同時に出来るよう段取るか、その展開が本書の醍醐味。そのステップは、1.ターゲットを見つける、2.自己紹介する、3.信頼関係を作る、4.裏切る、5.家に帰る、とある。家に帰るというのがいかにも欧米らしい。

本書は合衆国史上最大の美術品犯罪を追いかけ、あと一歩と言う所で官僚主義に邪魔される、その現実も赤裸々に描いている。どの国でも、組織というのは全体が見えていないのだな、と嘆いているところは、まるで著者は日本人であるかのようだ。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村書評・レビューランキング

0 件のコメント:

コメントを投稿