2017年11月18日土曜日

019 / 452 福島第一原発事故 7つの謎

10点満点で、7点。

NHKスペシャル「メルトダウン」シリーズとして、5回に亘る放送のために取材した情報を元に、7つの謎について迫った本。基本的には技術的な問題について取り上げており、人的問題についてはあまり立ち入っていない。内容が専門的なので、理解するのはそれなりの知識が必要だと思う。少なくとも俺にはわからないところが多々あった。それでも、わからないから読むのが苦痛、と感じることもなく、わからないなりに先へ読み進めようと思わせる内容。

取り上げた謎は以下の7つ、7章で構成されている。

  1. 1号機の冷却機能喪失はなぜ見逃されたのか
  2. ベント実施はなぜ遅れたのか
  3. ベントは本当に成功したのか
  4. 爆発しなかった2号機で放射能大量放出が起きたのはなぜか
  5. 消防車が送り込んだ400トンの水はどこに消えたのか
  6. 緊急時の減圧装置が働かなかったのはなぜか
  7. 「最後の砦」格納容器が壊れたのはなぜか

NHKスペシャルの内容を再構成しただけあって、図が多くわかりやすくなるよう配慮されている。それでも、テレビと違い、視覚情報として図を見つつ聴覚から説明を入れる、ということが出来ないので、今ひとつわかりにくい箇所多し。図は載っているのだが、本文は図の存在に触れず言葉だけで語っているところが多いので、そういう(あえて悪い表現をするができの悪い)本を読み慣れていないと、せっかくの図があまり役に立たないと思う。

福島原発事故は、高い放射線量のため今でも人が近づけない箇所が多く、謎に包まれている。本書でも、謎は謎として提示しているが「いまだに不明」というものも多く、決して安心できる状態ではないのだということを痛感させられる。

本書を読んで、俺の評価あるいは印象が変わった人たち、変わらない人たち。

吉田所長;
冷静沈着かつ果断な決断力、豊富な知識、部下からの信頼で原発を壊滅から救った人物という印象を持っていたが、当然ながら人間臭いところもある。副社長で原子力トップの武藤氏を技術的に頼りにしていたというのは初めて知った。

多くの原発マンたち;
「危ないと思う」レベルではなく、実際に命の危険を実感しながら事故の収束に向けて、本当に気力体力とも振り絞っていたのがよくわかる。

政治家;
良くも悪くも、これまで持っていたイメージ、他の本に書かれてあることと一緒。特に総理官邸の介入は、目前まで迫っていた電源復旧を最低でも40時間遅らせ、その間の放射能放出は全体の7割に及ぶという手厳しい評価がなされている。本当に、色んな本を読みニュースを見てきたが、この事故については政治家の存在がプラスになっている要素って見当たらない。

武藤栄;
副社長で原子力トップ、技術畑の人。イラ管がいつも怒鳴り散らしていた相手、という印象しか持っていなかったが、現場を熟知して吉田所長が最も頼りにしていた人物という印象を持った。最終章で武藤氏の行動、発言などが詳しく書かれており、本当にこの武藤-吉田ラインがなければ、原発は壊滅していたんだろうなあ、と思う。東電本社は官邸の顔色をうかがい、見当違いの指示ばかりだしてきて現場を助けるどころか邪魔ばかりしていたが、武藤氏だけは現場に頼られていたという印象。最終章だけでも、本書を読む価値があったと思うレベルで印象が変わった。


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