2010年10月22日金曜日

081 / 361 アメリカ皇帝になった男の話

10点満点で、8点。
読書時間・・・2時間程度

最初から民主主義国家として誕生し、わずか250年足らずの歴史しか持たないアメリカ合衆国。イギリスから独立して以来、国王すら戴いたことのないこの国に、皇帝がいたと言っても信じる人はどれだけいるのだろう。

しかし、皇帝は確かに存在した。20年あまりにわたってこの国に君臨し、市民から愛され続け、今なお愛されている皇帝は、確かに存在したのだ。

皇帝の名は、ジョシュア・ノートン一世。市民の絶大なる支持の元、アメリカ合衆国皇帝、メキシコの護国卿として、彼はサンフランシスコの地で国民を愛し、国民から愛され続けた。

即位宣言は、新聞に掲載された。自ら持ち込んだその原稿を、そのまま掲載した新聞社こそが、まずもって最初の忠誠心を示していたのだと本書は語る。掲載する新聞社も新聞社なら、それを読んだ国民も、そのまま受け入れてしまうところに、凄まじいユーモアを感じる。

9フィート×6フィートの居城に、家賃前金で1日50セントなり。在位中これを払い続けた皇帝はしかし、食事や交通には国民からの寄付があり続けた。レストランでは「皇帝陛下御用達」の看板を出すことを条件に最高級の部屋と食事を持って報いた。服が傷んでいると評判になれば、たちまち寄付が集まった。列車での食事に金銭を要求した鉄道会社は、逆に市民から総スカンを受けて、慌てて「終生無料パス」を発行している。

皇帝は、頭がおかしいのではないかと考えた警察官がいた。彼は皇帝を捉え、精神病院に送ろうとした。たちまち市民から非難が巻き起こり、警察トップが皇帝と市民に謝罪する羽目に陥っている。皇帝自らは寛大にも、この大逆罪を犯した警察官を許している。

皇帝は国債も発行している。25セントや50セントの国債を発行し、それを銀行がしっかり引き受けている。しかも皇帝は、満期を迎えたその年1月に急死するという、狙ったかのようなタイミング。この国債は印刷会社が無償で発行を請け負い、そして今に残された国債は、オークションで1000ドルを超える値が付いている。

皇帝はまた、南北戦争の和解仲介もしている。北軍のリンカーン大統領、南軍のデービス大統領に、それぞれ親書を送っている。そもそも皇帝は、自身こそ合衆国の最高権威であり、大統領の存在を認めていなかった。この親書に対し、リンカーンが「大統領選挙があるので・・・」とユーモアたっぷりに返しているところもいい。

真似をしたものもずいぶんいたようだが、本当に市民の心をつかみ、そして本物の皇帝であると認められたのは、彼しかいない。惜しむらくは皇后を迎えることに失敗し、血筋が続かなかったことか。

魅力的な人物だ。そして、謎も多い。謎は謎のままでいいのだろう。


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