2012年6月17日日曜日

014 / 405 プロメテウスの罠

10点満点で、8点。

福島第一原発の事故について、詳細に追ったルポルタージュ。こういう質の高い報道をやられると、「偏向報道の朝日」「アカヒ新聞」とかいう蔑称を使いにくくなる。やや主観は入っているが、基本的には客観的な、質の高い記事。

本書の記述を信用すると、原発事故の対処について、管政権は決して無能・無策ではなかったように思える。東電、官僚が情報を上げてこない中、独自に動かざるを得なかった状況が読み取れる。原発推進は国策だから、事故の責任を東電だけに求めるのは筋違い。しかし、事故の拡大を許したのは、間違い無く東電の不作為によるものといえる。そして、被害の拡大を許したのは、官僚の不作為とも言える。

一般の報道から受けていた印象と変わったのは、

・SPEEDIの情報が提供されなかった責任は、官僚にある。政府は、情報の存在を本当に知らなかった。
(これはこれで、重大な問題ではあるが)
・菅総理自ら、電源車の寸法や重量などを訪ねていたという話。どうやら、そこまで総理自ら手を付けなければ、事態が先へ動かなかったという危機感があったようだ。
・事故の拡大が続く中、「他に予算を振り分ける」という理由で、半世紀続いた放射能測定を中止に追い込んだ連中がいる。「放射性物質が飛散している、事故の最中だというのに!」
・放射性物質の拡散状況について、気象庁は論文発表を潰した。

本書の記述がどれだけ正しいのか、クロスチェックしていないからわからない。
しかし、本書を読む限り、政府は実はかなり努力していたのではないか、という印象を受けた。そして、東電と官僚は、ことごとくその足を引っ張り続けたという印象。

そういえば、福島のゴルフ場除染について、裁判で「飛散した放射性物質は東電の持ち物ではないから、東電は除染の責任を負わない」という主張を初めて読んだのもこの連載だったな。確か現在も連載継続中だと思ったが、こういう質の高い報道は続けてほしい。

本書をまとめる際か、連載中かはわからないが、カラシニコフの松本仁一氏がアドバイザーとして参加している。質の高さはこの影響もあるのか。

朝日新聞の記事なのに、学研から出版されているのも興味深い。なぜだろうね。


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