2018年9月6日木曜日

014 / 469 シャトゥーン ヒグマの森

10点満点で、7点。

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」、「七帝柔道記」の増田俊也氏のデビュー作。第5回「このミステリーがすごい!!」優秀賞受賞作なので、ミステリー小説だと思って読んでいたらぜんぜん違う。北海道の厳冬、そしてヒグマの驚異が圧倒的な筆致で描かれている。

ヒグマがどれだけ恐ろしい存在なのか、小説とはいえ本書を読むまでは知らなかった。なにせ現物を見たことあるのは、動物園のツキノワグマくらい。クマはたしかに脅威だが、体格は人間とそう変わらず、また基本的にクマは人間を恐れるものだと思っていた。
ヒグマは違う。ツキノワグマの体重が最大70kg程度なのに対し、ヒグマは400kgを超える。200kgを超えるエゾシカを一撃で屠る。5tものマイクロバスをひっくり返す。時速80kmものスピードで走る。散弾銃ではダメージを与えることなどできず、ライフルですら足止め程度。顔を半分吹き飛ばしても、脳のダメージが小さければ攻撃を続け、心臓を撃たれても動く。

土佐薫は、娘の美々、後輩記者の瀬戸とともに、年末年始を兄のいる北海道大学天塩研究林の山小屋で過ごすべく雪の林道を行く。途中、ゴミだと思ったものが人間の足だと気づき、とっさにハンドルを切ったことで車が横転。降りて確認すると、ヒグマに襲われたと思しき遺体、その残骸だった。その場にいるのは危険なので、クルマを諦めて歩いて小山で向かう。
小屋には薫の双子の兄で研究林林長の土佐昭、薫と昭の後輩で猛禽類研究者の小野眞伊子、眞伊子の婚約者で同じく猛禽類研究者のエスコ・バーネヤン、そして明らかに密猟者としか見えない西良明の4人がいた。すべてを自然の保護と研究に捧げ、電気の使用すら拒む昭が西にやたら遠慮しているのが異様。雪道を一時間以上歩いて小屋にたどり着いた薫たちは、ヒグマが人間を襲った跡があることを告げる。そしてその死体が、西の仲間であることを知る。

交通手段はなく、小屋に閉じ込められた7人。西の仲間を襲ったのは、シャトゥーンと呼ばれる、冬ごもりに失敗したヒグマ。シャトゥーンは小屋を発見し、襲ってくる。ろくな武器はなく、西の散弾銃もあてにならない。眞伊子の友人が車で迎えに来る一週間後まで耐えるしかないが、シャトゥーンは簡単に小屋を破壊し、一人、また一人と食われていく・・・

迫真の描写でヒグマの恐怖が迫ってきて、怖い。そして、ヒグマに襲われたものの末路が恐ろしい。生きたまま食われるというのはどういう状態なのか、生々しい。こういう描写が苦手な人にはおすすめできない。
しかし、ページをめくる手が止められない引力はある。



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