2018年9月18日火曜日

017 / 472 七帝柔道記

10点満点で、9点。

何度も読み返しているので当然書いてると思っていたが、書いてなかった。
戦前の高専柔道の流れをくむ、旧七帝大学(北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九大)のみで行われている七帝柔道の世界を描いた、著者の自伝的小説。

物語は、主人公が名古屋から北大へと進学し、北海道の大地を踏むところから始まる。二浪で合格した主人公は、一浪で先に入学していた鷹山と会うが、一緒に七帝柔道をやろうと離していた鷹山は、あまりの練習の辛さに既に柔道部を辞めていた。
七帝柔道との出会いは、名大柔道部が近隣の進学校を集めて開催した合同練習。愛知県でもそれなりの強さだった主人公は、寝技でても足も出なかったことに驚き、しかも名大柔道部の何割かは白帯スタートだと聞いて驚く。寝技に待てがない柔道、一本勝ち以外ない柔道、練習量がすべてを決める柔道という言葉と、七帝戦で勝つために力を貸してほしいという真っ直ぐな思いに心を動かされる。しかし地元を離れたかった主人公は、とりあえず遠くに行こうと受けた北大で景色に魅了され、二浪の末合格を果たす。

柔道部に入ってみると、そこは想像を遥かに超えた世界だった。苦しいという言葉では表しきれない、地獄の世界。「練習量がすべてを決める」ということはつまり、逃げ場がないということ。勝てなければそれは、練習量が足りないことを意味するのだ。一分でも練習したほうが、一本でも乱取りをしたほうが勝つ世界。580ページ近い本文の7割、いや8割は、辛い、苦しい、辞めたいという言葉が並ぶ。
待てがないどころか、参ったすらない世界。「参ったなんかしたらあんた、七帝じゃ笑いもんで」と言われ、絞め技は落ちるまで絞める。関節技は怪我をするため、練習ではそこそこで切り上げるが、本番では折る。
抜き役と分け役が決められ、分け役は徹底的に引き分けを狙う。抜き役と分け役に上下はない。抜き役を止めた分け役は、一人抜いた抜き役と同じ価値がある。史上最強の分け役、という一体なんだかわからない二つ名を持つ選手すらいる。

なぜここまで苦しい思いをしなくてはならないのだろう。先輩はなぜここまで厳しいのだろう。「七帝戦を見ればわかる」と言われ、地獄の苦しみに耐える日々。
ようやくたどり着いた七帝戦では、「お前俺達のために死ねるか」とまで声をかけられる。「試合にはみんなの人生がかかっとるんで」とまで言われる。

これだけの練習を重ね、覚悟を決め、それでも勝てない。涙の中で主将が交代。
決勝戦に感動し、勇気を出して優勝した京大の選手に話しかけたら「どんなに苦しくても辞めるな」と言われる。ホテルのロビーで偶然会った、京大と同時優勝の東北大の選手にも「絶対に辞めるな」と言われる。みんな苦しい練習に耐え、次々と辞めていく仲間を見送り、自分も辞めたいと思いながら歯を食いしばってきたのだ。

新主将の元、以前にもまして地獄の苦しみが続く。しかしそれは一年目だけではなく、二年目三年目も同様に地獄。
練習を離れたら本当にいい人たちばかり。これで練習さえなければ、と思うが、練習では容赦なく絞め落とされる。

新人歓迎合宿では体力の限界まで練習したのに、深夜まで寮歌の練習をする謎の歓迎イベント、カンノヨウセイ。気の荒いOBが多数出席し、毎年怪我人が続出。大学からはいい加減やめろと言われているらしいが、先輩は「お前たちだけは絶対に守るから」と言われて臨む。その先輩には、木刀で殴られた傷跡がある。合宿最終日、ついに訪れたカンノヨウセイでは何が起こるのか。

「柔道部がやってたんじゃ売れないだろ」というだけの理由で、「焼きそば研究会」を名乗って出店する北大祭。他の部やサークルが警備のために深夜までいるところを狙って、深夜料金で販売する意地汚さ。こちらは合宿や遠征費を捻出するのに真剣なのだ。

同期には、直情的で喧嘩っ早いが魅力にあふれる竜澤。三浪の体でスタミナこそ劣るものの、技は四年目にも引けを取らない沢田。他にも多数、七帝戦までには12人が残るが、それからも次々に辞めていく。

地獄のような練習にも、馬鹿な遊びにも全力で取り組む。全力で臨まないのは授業くらい。

靭帯を切って入院した病院で、柔道の話ばかりしていて看護婦に「柔道が好きなんですね」と言われるが、決して好きじゃない。じゃあどうして柔道を続けてるんですか、と聞かれて自然に出てきた「もちろん七帝戦で勝つためだよ」の一言。この言葉が出てくるまでに、一年以上かかっている。

常識はずれの世界。青春どころか、人生を柔道に捧げる男たちの世界。その柔道はあまりにマイナーで、柔道専門誌にすら掲載されない世界。
しかしこの世界は、現在も連綿と続いている。

本書は2年目の七帝戦までで終わっているが、その2年後に中井祐樹が入ってくる。
続編が現在「月刊秘伝」で連載中のようだが、早く読みたい。

ちなみに、コミカライズもされている。こちらはもうすぐ完結かなあ。できれば続編まで続けてほしいけど。

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