2018年9月24日月曜日

018 / 473 博士の愛した数式

10点満点で、7点。

なんか、断片的に知っていた書評とか紹介とかで、ずいぶん誤解していた。
マッドサイエンティストの本だとか、フォン・ノイマンがモデルだとか、どこでそういう誤解をしていたのかすら思い出せないけど、そう思い込んでいたらぜんぜん違う。「博士の異常な愛情」と混同していたか。

交通事故により、17年前より記憶が停まってしまった博士と、博士の世話をする家政婦、家政婦の息子の3者のドラマ。博士は新たな記憶は80分しか保たないため、毎日家政婦が何者であるかを聞くところから始めなくてはならない。元数学教授であった博士は数学について考えることに異常な関心を示し、また語りだすと止まらない。しかしそれは他者を省みないという意味ではなく、聞き手がいれば聞き手に理解できるよう、平易な言葉で説明することを厭わない。18歳でシングルマザーとなり、数学からは縁遠い生活を送っていた家政婦は、博士との会話で少しずつ数学について考えるようになる。

博士は家政婦と二人のときはあらゆることに無頓着でありながら、子どもには異常なまでの愛情を示す。家政婦に子どもがいると知ったら、子どもは親と過ごさねばならないと留守番させることを禁じ、一緒に食事を摂り宿題を見てやる。食事も、家政婦と二人のときはボロボロとこぼすのに、頭の形からルートと呼ぶことにした子供の前では完璧なマナーを示し、また子どもが最もいいものを食べるよう厳命する。
子どもを一個の人間として、そして宝として扱う博士の態度は実に立派で、これだけの振る舞いを見せる人物はリアルでは聞いたことがない。博士は事故に遭う前からこうだったのだろうか。

ルートも博士のことを深く尊敬し、博士が傷つくことがないよう、子供らしからぬ配慮を見せる。80分しか記憶が保たない博士は、ルートと会う度に初対面のはずなのに、ルートと博士は深い信頼関係で結ばれている。

博士は数学、特に素数について深く語り、家政婦はそれを理解しようと努めているが、作品の中であまり重要な要素である気はしない。門外漢には理解しがたい世界を理解しようとする、家政婦の誠実さを表している以上の意味があるのだろうか。

博士が愛した数式として、オイラーの等式、
eπi+1=0
が、とても重要そうにでてくるけれど、最後まで特別な意味を持ってなにかが起こることはない。博士は大切にしているらしいが、博士にとってどんな意味を持ち、周囲にとってどんな意味を持っているのか、作中で明かされることはない。

電気屋の端くれとしては、どうせならオイラーの公式
e=cosθ+isinθ
から等式を導出するところまでやってほしかったけど、まあ作品の本質とは全く関係ないから仕方ないか。ファインマンさんに、人類の至宝とまで言わしめた式なんだけど。

数学の話は少なからず出てくるけれど、上述の通り作品の本質とは直接関係ない感じ。興味がない向きは、数学について話している部分は飛ばしても、全く問題ない。
本質的には、博士と家政婦、そしてルートの交流を描いた話。

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