2018年9月22日土曜日

私の少年 第5巻 第23話 蓋(ネタバレ感想)

【ストーリー】
「聡子さんに すきって言っちゃ だめなんですか」
こぼれ落ちた真修の問いに、聡子は「だめじゃ ない」と答える。答えながら手が震え、さっき拾ったペットボトルの蓋を締めかける。土がついていることを真修が指摘し、蓋を洗ってくる。
戻ってきて蓋を渡す真修の腕に、痣を見つける聡子。どうしたのかと聞くと、階段の手すりにぶつけたと答える真修。ほんとに?とやや疑問を持って聡子が聞き直すが、真修は一体何を気にしているのかピンとこない。


聡子は少し考えて、改めてだめじゃないよと告げる。しかし同時に、大人として真修の気持ちに応えることはできない、とも告げる。
遼一が帰ってこない、と真修が助けを求めてきたとき、家に上がったときのことを話す。あの時真修の家庭環境に問題を感じた、しかし適切な対応をせず、他人だからと及び腰で、真修を見放してしまった。今度こそ真修を守らせてほしい、と言う。

俺は聡子さんに守られたいって思わない、と応える真修。俺が弱いと思っているからなのか、と言う真修に、聡子はそうじゃなくて子どもは、と答えかけるが、電話に遮られる。もう帰る、と言って飲み物のお金を払おうとする真修の財布から、あの日のビー玉がこぼれ落ちる。悔しさと恥ずかしさが混ざったような表情を見せて、逃げるように去る真修。


帰宅した真修は呆然としながら風呂に入り、失恋した現実を噛みしめる。

引っ越しの荷物を受け取った聡子は、開梱しながら真修の言葉を思い返す。受け流すこともできたはずなのに、だめじゃないと言ってしまった自分は、一体何を言おうとしていたのか。

真修の痣を思い出し、真修の感情は「甘えられる大人」である自分に対する感情がごちゃごちゃになっているのだろう、と思う。真修の気持ちを拒むことと、誠実な大人であろうとすることがイコールであることに苦悩するが、真修のためにはそうするしかない。

まだガスが開通していないので風呂に入ることができず、銭湯に向かうことにする。
歩きながら真修のことを思う。仙台で転んだときに手を差し伸べてくれた真修。東京で再会し、おかえりなさいと言ってくれた真修。むかえにいきますと言った真修。真っ直ぐな目で、すきって言っちゃだめなんですか、と問いかけてきた真修。涙が溢れ、どうして一緒にいられないんだろう、と思う。


同じ頃、疲れてうたた寝している真修に、まゆからLINEでメッセージが届く。

【感想・考察】
脳内BGMは西村由紀江さんの「伝えたいのに」
アルバム「扉をあけよう」に収録。いいアルバムなので、興味がある向きはぜひご視聴を。


想像以上に聡子が真剣に対応していて少し驚いた。予め用意しておいた答えではなさそうだけれど、真剣に考えながら対応しているのがよく分かる。
とっさに「だめじゃ ない」と返しているのは、あとから何を言おうとしていたのか自分でも考えているところを見ると、階段を全力疾走したときと同じく、本心から出た言葉なんだろう。答えながら手が震えている。自分が引こうとしたラインを踏み越えてしまいそう、そのことに気づいていながら、理性で感情を押さえきれていない様子が読み取れる。もし前回ペットボトルの蓋を落としていなければ、真修が蓋に注意をしなければ、そのまま受け入れてしまっていたのかもしれない。タイトルの「蓋」は、聡子の心の蓋もさることながら、感情のブレーキを取り戻すのに重要だった、このペットボトルの蓋を指しているのかもしれない。

しかし、真修が仙台行きを言い出したときと同じく、ここで一呼吸入ったことで冷静さを取り戻している。
戻ってきた真修の腕にアザを見つけて、DVを疑ったのだろう。これが決定打になって、言うべきことを考え直したように見える。自分の立ち位置は、「真修を守る大人」であろうとしていることを。それが母親代わりの存在なのか、別の存在なのか、具体的な在り方は、聡子自身わかっていないのかもしれない。「やらなきゃいけないこと」とは恐らくそれなのだろうが、現時点ではまだはっきりとはわからないな。

あなたの気持ちに応えることはできない、と言っているが、「大人として」という前提がついている。本心は別にある、と言外に言っているのか。真修がそれに気づいている感じはしないが。
真修の家に上がったときのことを思い出し、何もできなかった自分のことを「あなたを見放した」と表現している。あれを見たからこそ、一歩踏み出してプールに連れ出したりもしたのだろうが、踏み込むことはしなかった、と後悔しているのだろうか。然るべきところに連絡をして、と言うのは、真修にとって助けを求める相手が自分以外にも存在するべきだった、ということだろう。自分にはそれができたはずなのにしなかった、それを悔やんでいるのか。
今度こそあなたを守らせて欲しい、と言う言葉に真修は反発しているが、聡子にしてみれば「いなくなることはない」という意思表示ではないだろうか。そして現在も、聡子にとって真修は守るべき対象なのだ、恋愛対象ではないのだ、ということをアピールしている。

真修にしてみれば、聡子が泣いた姿を「小さな女の子のようだった」と思い返しているくらいだから、保護者/被保護者という関係は最初から頭にないんだろう。もしかしたら、聡子がそういう意識を持っていることを、考えたことすらなかったのかもしれない。応えることができないと言われたときよりも、守らせてほしい、と言われたときのほうがショックを受けたように見える。年齢以外は対等の関係だと思っていたところに守りたいと言われたから、自分が弱い存在だと思われていたことにショックを受けたのか。

聡子が真修のことを「あなた」と呼んだのは初めてじゃないだろうか。普段真修からはさん付けで呼ばれ、自分は呼び捨てにする、年齢からくる上下関係を意識的に排除しつつ、客観的事実として年齢差が存在することをアピールしているのか。そこまで考えてはなくとも、事実として真修は子どもと言われる年齢だからこう言わざるを得ないけれど、子ども扱いはしていないよ、という意思表示か。

このタイミングで電話をかけてくる空気を読まない存在は誰なのだろう。まさか八島(絶対違う)
まあ椎川とかだったらこの日のうちに回想などで登場するだろうから、引っ越し屋の可能性が高いか。

真修は折りたたみの財布からビー玉を落とすって、いったいどういう持ち歩き方をしてるんだか。毎日持ち歩くものとして扱ってるんだろうけど、変な膨らみ方してしまうだろうに。これを落としてしまったことで、聡子の気持ちも離れてしまったという感情を表しているのか。逃げるように去っていく真修の表情は、思いが届かなかった悲しさよりも、弱い存在、対等ではない存在だと思われていたことに対する悔しさが見える。
失恋したんだ、と振り返っているが、「振られた」という表現ではないんだな。真修のことを大切に思っている、聡子の気持ちもある程度わかるのか。

聡子は帰宅後、受け流さなかったことを後悔したのだろうか。でも、受け流さずにちゃんと答えて正解だと思う。
真修の気持ちに応えることはできないと言い切ったが、自分がそういう感情を持っていることは否定していない。理性と感情のバランスで、真摯に対応したらああ言う他なかったのかもしれない。真修を守りたいというのも間違いなく本心だろう。しかしそれは、恋愛感情と同居できる感情のようだ。聡子は明らかに、真修の言葉に感情を動かされて、自分も恋愛感情を持っていることに気づいた。そして、真修の気持ちをわかった上で、一緒にいたいと思っている。理性で押さえつけてはいるけれど、理性が邪魔だと感じ始めているようにも思える。だから、真修の言葉を思い出したとき、困るのではなく悲しくなるのだろう。

私がここにいる理由は真修だ、と言っているが、自分の感情も真修の感情も、大人として聡子があるべきだと思っている関係になれるとは思えない。そもそも、このあと真修とコンタクトを取るなんてできそうにない。真修から連絡をしてくるのはなにか口実が必要だろうし、それは相当な不可抗力でないと動けないだろう。聡子からコンタクトをとるのは残酷過ぎる。太宰治が身を投げた川とあるから玉川上水のようだが、真修と同じ中央線沿線だとしても、ターミナル駅ではなさそうなので駅や電車で偶然会うというのも考えにくい。いやまあ、仙台で偶然会う可能性なんてもっとなかったんだけど。

だからこそ、最後にまゆからメッセージが届くことで、次の展開につながるのだろう。
しかしいつの間に連絡先を交換したのか。20話で交換したのなら、もうその時点でまくら=真修ってわかるのだから、21話でカマをかける必然性がなさそうだけど。

次の展開が気になるけれど、聡子の気持ちも見えてきたから、2ヶ月はなんとか耐えられそう。
22話で次回休載なんてことになってたら、耐えられそうになかったけど。単行本派の人はキツイだろうなあ。

第25話のネタバレ感想
第24話のネタバレ感想
第23話のネタバレ感想
第22話のネタバレ感想
第21話のネタバレ感想
第20話のネタバレ感想
第19話のネタバレ感想
第18話のネタバレ感想
第17話のネタバレ感想
第16話のネタバレ感想
第15話のネタバレ感想
第14話のネタバレ感想
第13話のネタバレ感想
第12話のネタバレ感想
第11話のネタバレ感想
第10話のネタバレ感想
第9話のネタバレ感想
第8話のネタバレ感想
第7話のネタバレ感想
第6話のネタバレ感想
第5話のネタバレ感想
第4話のネタバレ感想
第3話のネタバレ感想
第2話のネタバレ感想
第1話のネタバレ感想

単行本kindle

0 件のコメント:

コメントを投稿