2018年8月19日日曜日

私の少年 第4巻 第15話 再会(ネタバレ感想)

【ストーリー】
あのひとが泣いた日を覚えている
あのひとの泣く姿を覚えている
あのひとは まるでちいさい女の子のようだった


偶然聡子を見かけ、声をかけた真修。人違いか、と思ったら聡子は走り出す。逃げた、と思った矢先、聡子は派手に転んでしまう。
コンビニで絆創膏を買って渡す真修。擦りむいた肘に貼り、それじゃあ、と席を立つ聡子を、真修は無意識に引き止めた。

真修は学校生活を思い出していた。学級委員長として、修学旅行の班割をする真修。男子はあっさり決まっているが、女子は難航しており菜緒が苦労している。揉めてたね、と声を掛けると菜緒は女子のほうが熱心だからだよ、と答える。班割なんて修学旅行のあいだだけなのに、と言う真修に菜緒は、一生に一度の修学旅行だから最高の思い出にしたいんだよ、と返す。たとえそれで泣く人が出ても。


帰宅して塾のテキストを開く真修。志望校調査の紙に、志望理由を書こうとして悩む。父親の出身校だから、という以外に理由がない。俺って何もないな、と思う。かつて弟が帰ってこなかったことを父親に言わなかった時、サッカーを続けていいのは弟の面倒をみるから、レギュラーになれなかったらクラブは辞めるはずだった、それらの約束を全部破ったと責められて、クラブを辞める羽目になったことを思い出す。ふと聡子の笑顔を思い出し、したいとかほしいとか俺にもあったよ、と思う。これで届かないならもうやめよう、と思いつつ、何度目か思い出せないくらい聡子にショートメッセージを送ろうと試みて届かない。ストーカーみたいだ、と自己嫌悪する。


修学旅行の場面では、彼女と出かけるやつを見かけたり、あるいは自分と写真を撮りたいと言ってくる女の子がいたり。真修には相手が誰だかわからない。
お土産は別行動で、と告げると、みんなバラバラに行動を始める。班で歩いてる人もいない。それを見て、最高の思い出、とぼんやり考えたら、聡子と買い物をしている自分が思い浮かんだ。それで泣いちゃう人が出ても、という菜緒の言葉を思い出して、泣くのはやだな、と思う。そう思った矢先、泣いている人を見かけたと思ったら、それが聡子だった。

現実に戻った真修は、聡子にずっと謝らないとと思ってた、という。謝らないといけないのは、と聡子がいいかけるが、「俺が馬鹿だから」と真修。父親と回転寿司に行ったときに聡子と行ったことを話したことを思い出す。その直後、父親は早く家に帰るようになり、わがまま聞いてやれるのは今だけだぞ、と言われる。頭を撫でる父親に嫌悪感を覚える真修。父親を怒らせたから、金曜日の練習が禁止されたと思っている。


聡子との約束を破って、と言いかけるところを「なんで謝るの」と遮る聡子。手当もしてくれたじゃない、と絆創膏を見せる。

改めて話し始める二人。真修は声変わりしていて、聡子には誰だかわからなかった。聡子さんはかわらない、と真修。なぜここにいたのかと聞かれ、修学旅行と答える。聡子の携帯がなるが、大丈夫と言って出ない。
聡子の顎が擦りむけていることに気づいた真修は手を伸ばすが、聡子はビクリと反応し、とっさに顔を背ける。何も言えなくなった真修は席を立つ。あれは拒絶だ、俺が馬鹿だったから、金曜日の練習の約束を守らなかったから、したいとかほしいとかを言い過ぎたから、周りから誰もいなくなると言った父の言うとおりになった、と悔やむ真修。


トボトボと歩いているところに、聡子が追いかけてきた。何事か、と驚く真修にマフラーをかける。さっき顔に真修の手があたった時、あまりに冷たくてびっくりした、という聡子。いらなくなればどこかに捨ててもいいし。元気でね、と聡子。
あれは拒絶じゃなかった、と安心したら涙が伝ってくる。たまらなくなり、再び聡子を呼び止める。絆創膏が一枚ほしいとせがみ、自分の連絡先を書いて聡子の手に貼る。連絡先を知りたいし、話をしたいし、またご飯も食べたいし、さっき泣いてた理由を知りたいし、まだあるけど全部叶わなくていい。もっかい会えたから、と真修。今度こそ晴れやかな笑顔で聡子と別れる。


帰りの新幹線で、和樹に自分用のお土産を買えばよかったのに、と言われるが、膝のマフラーを見てもう十分だと答える。


【感想・考察】
辛い話が続いたあと、希望が持てるようになった回。今回初めて、真修の視点で話が展開する。
あとがきによると、これまであえて真修の掘り下げをやらないことで一種のファンタジー感を出していたが、ようやく真修を人間にしてやれた、とか。確かに、この話以降一気に真修が年齢相応に見えてくる。
(今までは、異常に物分りが良すぎてやや気持ち悪さを感じるレベルだった)

冒頭、聡子が泣いている姿を思い出しているところから始まる。第1話で体温計の話をしたときのことだろう。真修の目には「ちいさい女の子のようだった」と映っていることから、最初から聡子は真修にとって大人ではなく、強いところも弱いところもある一人の女性として認識されていたことがわかる。自分が守ることができる、と感じたからこそ、抱き寄せて胸の音を聞かせるということが自然にできたのだろうか。

声をかけられた聡子がとっさに逃げ出したのはどういう心境だろうか。もう真修と接点を持ってはいけない、と自分に言い聞かせていたからというのはあるだろうが、それ以上に真修に弱い自分を見せたくなかったのではないだろうか。自分が弱い存在であることが真修に見られてしまうと、真修が離れていくことができない、と考えている気がする。

真修に絆創膏を買ってもらい、それをイートインスペースで待つというシチュエーションがどういう流れで出来上がるのかよくわからないが、転んだところで改めて声をかけられたので逃げるわけにもいかず、気持ちを落ち着かせるために少し離れてもらった、というところだろうか。

真修の中学生活が少しずつ見えてくる。学級委員長になっており、班割も和樹に誘われていることから、小学生の頃ほど孤立していないことがわかる。誰かわからないというのがちょっと切ないが、真修のことを気にかけている女の子も菜緒以外にいるようだ。しかし、真修自身は周囲をかなりドライに見ている。意識しているわけではないと思うが、用がなくともなにか話す、典型的な友人はいないように見える。

真修がサッカークラブを辞める羽目になったときの会話が明らかにされる。これまでの真修あるいは早見の説明とはやや異なる内容。「早見が何もしなくていいなら続けていい」という説明だったが、実際には弟の世話をするという条件が付与されていたことがわかる。レギュラーになれなかったら辞めるというのも、早見は聡子に「辛かったら辞めていい」という趣旨だったと説明しているが、早見はそもそも辞めさせたがっていたことがわかる。しかし、「自分のしたいことばかり通して肝心な約束を守らない」と真修を責める早見は、それ以前に父親としてやるべきことをやっていない、説得力のない人物に見える。

したいとかほしいとか、俺にもあったよ、と真修が思い出すのは、社会のプリントを見てくれたときの聡子の笑顔。何かをしているわけではない、単に側にいるだけの姿を思い出しているのは、聡子が「いてくれるだけで幸せ」な存在だったということだろうか。
スマホで何度もショートメッセージを送ろうとして失敗しているところを見ると、聡子は電話番号を変えているのだろう。そして、そのことに真修が気づかないわけがないのだが、それでも送り続けているということは、聡子の電話番号を今でも大切に持っているということだろう。

最高の思い出、というキーワードで聡子の姿が浮かんでくるのは、どんな思い出よりも聡子と過ごした時間が大切だったことがわかる。むしろ、聡子がいない時間は、真修にとって無味乾燥な時間だったのだろう。

真修と父親との会話、「金曜日の練習の約束を守らなかったから」というモノローグから見ると、花火の翌週(かな?)練習に行かなかったのは、聡子と話がついていることを知らなかったように思える。花火の後で父親を怒らせたから練習に行かせてもらえず、真修が来なくなったから聡子がいなくなった、と受け止めているのだろうか。ここまで単純ではないが、練習に行かなかったことが、聡子にダメージを与える行動だったと思っているのだろう。

謝ろうとする真修に「手当もしてくれたじゃない」と遮る聡子は、真修がいつまでも辛いことを思い出さずに済むように気を遣っているのだろうか。そう言われた真修の微妙な表情からは、心の重しが取れていないことがわかる。

最初の別れ、聡子の顔を見ずに「それじゃあ」と告げる真修、席を立たずに「じゃあね」と手を挙げる聡子は、二人共話したいことをぐっとこらえている様子がわかる。特に真修は、話したいことがいくらでもあるのに、言い出せなくなった辛さがよく分かる。
店を出る真修を見送る聡子の表情は、何も話さないという選択をしたことを後悔しているように見えて、また話を続ける口実を探しているようにも見える。だから、わざわざ店を出て追いかけたのだろう。
マフラーをかけて、真修の手があまりに冷たくてびっくりした、という聡子は、自分の態度が真修を傷つけたことに気づいていたのだろう。話は出来なくとも、真修に新たしい傷をつけずに済んだ、そう思ったから二度目の別れでは笑顔で「元気でね」と言えたのではないだろうか。真修も今度は聡子の目を見て頭を下げている。

もう一度思い直し聡子を呼び止めて、いろいろあるけどもう一度会えたからいい、と真っ直ぐな目で聡子に告げる真修は、その目が2年間いかに聡子のことを思い続けていたのかを雄弁に語っている。聡子の表情から笑顔が消えているのは、声変わりした真修に男を感じ、そしてその態度に恋愛感情を感じたのではないだろうか。小さくなっていなければならない自分の存在が、真修にとって「会えただけでいい」とまで言わせる存在になっていたことについて、受け止めきれていないように思える。

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第15話が収録されている4巻はこちら。
19話から月刊アクション(双葉社)から週刊ヤングマガジン(講談社)に月イチ連載で移籍した関係で、4巻までは双葉社と講談社の両方から出ているが、カバーデザインも収録内容もすべて同じだそうで。

双葉社講談社kindle

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