2018年8月23日木曜日

011 / 466 不死身の特攻兵

10点満点で、7点。

9回の特攻出撃を繰り返し、「必ず死んでこい」と言われながら生還を果たした特攻兵、佐々木友次氏の話。そういう人が存在するというのは聞いたことがあったけれど、具体的なことは何も知らなかった。たまたま書店で、太平洋戦争特集みたいなコーナーに置いてあるのを見かけて手に取った。

本書の大半は、既に絶版となっている高木俊明氏の「陸軍特別攻撃隊」の抜粋。著者が佐々木氏を知ったのは他界される少し前で、佐々木氏の戦争体験を詳しく聞くことはできなかったから、それは仕方ない。著作権者の許可も得ているようだし。
これによると、佐々木氏の戦争経験は非常に厳しい。パイロットに憧れて訓練を続け、凄腕のパイロットとして頭角を現したばかりに、特攻兵として選抜を受ける。その隊長は体当たりの有効性を否定し、跳躍爆撃という難易度は高いが撃破率も高い方法の第一人者として訓練を重ねていた岩本大尉。岩本が行ったのだからもはや体当たりしかない、という世論を煽るための、政治的な人選。
しかし岩本大尉は、本来できないはずの爆弾を投下する方法があることを知り、それを部下に伝える。またそれとは別に、死ぬことが目的ではない、敵艦に命中させることが目的なのだから、何度でもやり直していいと告げる岩本大尉は、本物の軍人だろう。それに比べ、後方の安全なところで、ただ名誉のために死ね死ねと命令を出し続ける連中の醜悪さが目に余る。

佐々木氏は結局体当りすることなく、機体不良で帰還したり、あるいは爆撃に成功したりして、都合9回の出撃から生還する。しかし戻ってきたときに待っているのは、前線の兵士からの尊敬だけではなく、後方からの罵倒と叱責。俺もあとから逝くから、と言って送り出した連中は誰も逝っていない。

この醜悪さは、戦後も尾を引いている。当時の指揮官は(少なくとも佐々木氏にとって)真実を語らず、特攻兵を美化するばかり。
元特攻隊員の桑原氏が、戦後予科練の懇親会でインタビューを受けて「皆死にたくなかった、怖かった、しかし命令であるから従うほかなかった」と語ると、予科練の面汚しだと四方から罵声が飛んだと言う。しかしその中で、実際に特攻隊に配属された経験があるのは桑原氏だけで、罵声を飛ばした人々はその経験がない。当事者と外野の意識の違いがよく分かる。

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