2018年8月18日土曜日

私の少年 第3巻 第14話 ドラマ(ネタバレ感想)

【ストーリー】
あれから2年。仙台で忙しく働く聡子の携帯電話は鳴りっぱなし。車中ではラジオばかり聞いているが、「もう一度君に出会えたんなら」という歌詞が流れてくるとブツリと消す。


帰宅すると、母親と妹がだらけた感じで待っている。もう32歳なのに浮いた話の一つくらい、と毎日同じ話を繰り返す母。適当にあしらって部屋に戻る聡子。
ベッドでダラダラ猫の動画を見ていると、妹のまゆが入ってきて、元気が無いことを心配する。起きたときから寝るまでずっと疲れてて、と答える聡子にまゆは退屈なんだよ、非日常なドラマがほしいんだよ、と言う。


非日常なんてどこに落ちているのだ、拾い方だってわからない、と思いながら、まゆと買い物に出かける聡子。荷物を置きにいったまゆを待っていると、高校時代の同級生、八島と会う。ご飯食べに行こう、今からが駄目ならLINE教えて、と八島。これはほんのりレアイベントではと思う聡子。車で聞いているラジオ、岡本真夜という言葉が出てきた途端やはりブツリと消す。

日を改めて八島と会う聡子。海外赴任が続いていて、6年付き合っていた彼女と別れたらしい。高校時代、バス停が一緒だったので何度も話しかけようとしたけれど出来なかった、同じシチュエーションで出会えたから運命じゃないかとドラマを感じた、と八島。
帰宅すると、まゆは鋭く男と会っていたのだと見抜く。なにか男女的なやつじゃないから、と言う聡子にまゆは爆笑し、いい年したフリーの男女が休日会うときは男女的でもいいんだ、と言う。確かにそうだ、なんで思春期みたいにムキになっているんだろうと思う聡子。高校時代を思い出し、ドラマみたい、と思う。


別の日、また八島と会う聡子。誕生日の祝福を見て、度の国の女の子もサプライズって好きだよね、と八島。話しかけて、その前に聡子の誕生日を聞くと2週間後だと答える。10月21日は日曜だから、また会おうと約束する。誕生日なんてどうでもいいが、価値のある日にしようとしてくれている八島に流されることにした聡子。
33本のバラを持って迎えに来た八島。ドラマが私には必要なんだ、と自分に言い聞かせる聡子。と、音楽が停まり、客が歌い出す。もしかしてこれはフラッシュモブ、と青くなる聡子に八島は
「多和田・・・いや・・・聡子さん 僕と結婚前提にお「ごめん無理だ」


席を立って走り出した聡子。いらない。非日常もドラマも全部なにひとつ欲しくない。
私が欲しいのは、真修と過ごしてきた、あのささやかな流れていく日常、ただそれだけなのになあ。


すすり泣く聡子に声がかかる。「聡子・・・さん?」
振り返ると、学生服姿の真修がいた。
ドラマなんか いらない。


【感想・考察】
後書きによると、最初は3巻は真修と別れるところまでで終わらせるつもりだったらしい。それだとキツい巻になるので、再開までにしたとか。そりゃ別れで終わってたら辛すぎるよなあ。

聡子が主任になり、恐らくは部下もついている。出世していなければ椎川と同格か。左遷されたとは思えない処遇だから、本当に聡子は優秀で、会社は再起の道を与えようとしているのか、あるいは早見がうるさいから異動させただけで、評価上のペナルティを与えるようなものではないと判断していたのか。まあプライベートの出来事だから後者かなあ。

仙台では2年経過。平成28年9月15日付で異動して2年経過、聡子の誕生日が10月21日ということは、平成30年8月の現時点で未来の話をしているわけだな。どうでもいいけど。

聡子の家族初登場。なんでもない日にカレーを買ってきて、と頼む母親は、あまり家事をしないのだろうか。これまでも、良い母親を思わせる描写はない。
まゆは化粧がケバく、聡子とはずいぶん違う印象。しかし洞察力は恐ろしいまでに鋭い。聡子が「退屈している」と感じたのだけは外れか。聡子は退屈ではなく、抜け殻になってしまっているのだろう。

フラッシュモブの八島は、まあキャラもモブだろうな。聡子の反応を見ていない、自分のことだけ考えて相手に目が行かない、それは聡子じゃなくても心は動かないよなあ。それでも聡子は流されようとしていたけれど、やはり違和感は埋めきれなかったか。やしまと話をしているときの聡子は、あまり興味がないが妥協しようとしているように見える。椎川のことを「そんなに好きじゃなかった」と表現していたから、同じような感じなのだろうか。椎川は、自分にそう言い聞かせているだけで、かなり大切な存在ではあったようだが。

まゆに笑われて「男女の関係でもいいんだ」と自分に言い聞かせる聡子は、逆に無意識のうちに、そうあってはいけないと思っているのだろうか。東京での休日は、と思い出した時言葉にならないことからも、真修のことが強く影響していることがわかる。真修を恋愛対象として見ていたかは別として、真修に男女の関係を迫ってはいけないという意識はあったのだろう。

八島のフラッシュモブが始まった時聡子は青ざめるが、決定的なのは「聡子さん」と呼ばれたことではないだろうか。聡子にとって、そう呼んでいいのは真修だけ、真修との思い出を踏みにじられる感じがしたのではないだろうか。「聡子さん」と呼ばれた瞬間の目が怖い。
店を出て走る聡子はスカート姿なのが確認できる。これまでスカートを穿いていたのは、真修と回転寿司を食べに行ったときだけ。もう1回、第10話で真修との未来を想像したときもスカート姿だが、これはあくまで想像。めったに穿かないスカートを穿いていることからも、八島に流されようとしていたことが読み取れる。そこまでしても、所詮無理して付き合っているだけで、真修のように自然に近い距離感でいることは出来なかった。

反対に、真修との思い出を「ドラマなんていらない」と思い、「ささやかな流れていく日常」と表現している。恋愛感情のような盛り上がりではなく、一緒にいることが自然な、当然のような距離感が快適だったのだろう。年齢差を考えても、恋愛感情ではそういう距離感であることは考えにくい。母性、あるいは歳の離れた親友、という位置づけに思える。以前書いた気がするけど、聡子にとって真修は、離婚して親権を取られた子供のような存在なのではないだろうか。一緒にいて当たり前なのに、周囲の環境がそれを許さないという。

八島と会って、自分が求めているのはこれじゃない、真修との日常なのだ、と思い泣いているときに真修と再会する、これがドラマでなくて何だろう。だが、早く聡子が真修と会うのに、ドラマが必要でなくなる時が来てほしい。

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第14話が収録されている3巻はこちら。
19話から月刊アクション(双葉社)から週刊ヤングマガジン(講談社)に月イチ連載で移籍した関係で、4巻までは双葉社と講談社の両方から出ているが、カバーデザインも収録内容もすべて同じだそうで。
双葉社講談社kindle



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