心理描写が秀逸で、みんな思いがわかる、伝わってくる、それだけに辛い。
【ストーリー】
真修は夢を見ていた。聡子がいない2年を振り返る夢。同じことをひたすら繰り返し、わずか3分に圧縮できる夢。しかし、終りが見えない状態で過ごすのは歯がゆかった。その2年が終わる。
聡子から、12/8に引っ越すことになったとメッセージが届く。
学校で、友人の別れ話を小耳に挟む。受験に集中したい、1年この状態が続くのは難しいから、と話している。たった1年で元に戻るとわかっているのに離れるなんてわからない、と思う。
聡子からもらったニガガクに取り組む真修。2の書き方をチェックしたり、xの書き方をチェックしたり。xの書き方を真似てみたり。早く迎えに行きたいと思いつつ、それまでに半分終わらせることにする。
当日。何を話そうかいろいろ悩む。話したいことはいろいろあるけど、俺の話題は面白くないだろうし。とにかく聡子が笑える話がしたい、と考える。
東京駅で聡子と再開。聡子は笑顔で手を振ってくれた。
駅構内の店の話をされるが、真修にはピンとこない。普段使わないからわからないよね、と言われ、これから利用してみます!とよくわからない答えをしたり、気持ちが空回りする。
電車で、今日はどうする予定なのかと聞かれ、引っ越しを手伝うつもりだったと答える真修。トラックが何時に来るかわからないし、まゆが来るからだいたい頼んじゃうつもりだからいいよ、とやんわり断る聡子。じゃあこのまま帰ることになる、もう少し話をしたいと思うが、うまく話ができない。すごく居心地がいいのに、すごく緊張する。
聡子の新居は駅から近い。時間あるしもう少し話そうか、と聡子。家に上げかけるが、東京駅で買ってきたものを公園で一緒に食べよう、と聡子。
最近どんな感じか聞くが、真修は口ごもる。言いづらいことなら無理に話さなくていいけど、少しでも話せることなら教えてよ、と聡子。つまんないと思う気がするから、と答える真修に、面白い話が聞きたいんじゃなくて、真修のことが聞きたいのだと答える。少し安心して、真修の表情が明るくなる。ニガガクに取り組んでいること、高校は家から通えるところにしたことを話す。でも、違う駅とかに行ってみたかった、例えばこの駅とか、と水を向ける。顔をそらし、たしかにいいとこっぽいもんね、とかわす聡子。
話しながら、今日からずっとこうしていられるんだ、いつか2年間毎日考えていたことを伝えよう、いつでもいい、と思う真修。
友達の進学先を聞かれ、結構バラバラになりそうと答える真修。別れ話の話を思い出し、少し口ごもるが何でも話す、と考え直す。受験なんて1年で終わるのに、終りが見えてるのにそんな理由で離れられるなんて、と真修。しかし聡子は、この時期の1年は中学生活の中でもすごく大切な時間、初めて人生の選択を迫られる子がほとんどだろうし、その中でちゃんと自分自身のことを考えて答えを出した二人はえらいよ、と聡子。それに対して真修は、終わるとわかっているなら3分でも2年でもそれ以上でも待てる、と真修。
それはそれで凄い、私は子どもであるこの期間、真修たちは自分自身のことを一番に考えられる環境にいてほしいと思っている、と聡子。聡子が他人行儀に見えて、意図をはかりかねる真修。俺はこれまでの2年間、自分以外の人のことをずっと考えてました、と口に出してしまう。聡子はどうだったかと聞くが、そんなの覚えてないよ、1年も2年もあっという間に過ぎていったから、とかわす聡子。
真修は2年前のことを思い出す。長い2年がようやく終わって、すべてが元通りになると思っていた。夢を見ていた。
いつか言おうと思っていた言葉が口に出る。俺いま、聡子さんにすきって言っちゃだめなんですか。
【感想・考察】
聡子のいない2年間、やはり真修の世界には色がついていなかった。2年間を振り返るのにわずか3分。その終りが見えない期間を振り返るのに、「辛かった」ではなく「歯がゆかった」というのに意思を感じる。自分が子供でさえなければ、できることはあるはずなのに、という思いだろうか。
聡子から届いたLINEは、登録名が16話の「sato」から、「多和田聡子」に変わっている。登録名は他の人あてにも共通だろうから、真修だけのために変えたわけではないかもしれないが、ちょっと気になる。聡子のイメージからはそぐわない、「!」の使用も。
受験のために別れるという話を聞いて、たった1年のために、それも1年経てば元に戻るとわかってるのに、と思うのは、先の見えない中で2年を耐えてきたからこそ言えるのだろうな。耐えたというか、耐える他なかったのだろうが。もし10月に聡子と再会できていなければ、その後も2年3年と無味乾燥な人生を送っていたのかもしれないと思うと悲しくなる。真修にとっては、聡子がいない2年の間、周囲に何ら希望を見出すことができなかったのだろう。そしてこの時点では、聡子と「元に戻る」ことを考えている。
そしていつの間にか、聡子のニガガクを入手している。20話では聡子が今度来る時持ってくる、と言っているが、その後会った気配はないので、送ったのだろう。ということは、聡子は真修の住所を知っているし、真修も聡子の実家住所を把握したということだろう。まさか匿名匿住所で送るなんてことはしないだろうし。もうすぐ東京にでてくるのだから、仙台のどこに住んでいるのかという情報は、もう隠す必要がないということか。
そしてそのニガガクを見て、xの書き方を聡子に合わせて変えてみたり。心当たりがありすぎてよく分かる。
書きながら、「早く会いたい」ではなく「早く迎えに行きたい」という表現を使っているのは、聡子が上京する=一緒に過ごせる時間が増える、と考えているのだろう。ただ会うだけではない、継続的に会える、それが日常になると思っているからの表現ではないだろうか。
会ったら何を話そうか、と考えているのは、18話で電話したときに必死で話題を探していたのを思い出す。言いたいこと、伝えたいことを考えるのではなく、聡子が笑顔になれることを考えている。自分より聡子の気持ちが優先。このとき思い描いた聡子の笑顔が、微妙に年齢相応に老けた感じがするのは気のせいか、意図的なのか。
駅であった聡子が見せたのは笑顔。20話で会ったときは笑顔を見ていないから、真修に笑顔を見せたのは19話で、「だからの先今はわかんないわ」と、息を切らしながら言った時以来。このときは余計なことを何も考えずに、心臓の中に一つだけ残っていた言葉を出したあとだから、自然な笑顔。しかし今回は、他の場面も含め、他人行儀な笑顔に見える。穿ち過ぎかな。電車での表情は固いから、心からの笑顔を見せたわけではないと思うのだが。
はっきりとはわからないけれど、聡子はスカートを穿いているのだろうか。今まで4回(第4話の回転寿司、第10話で想像した未来、第14話の高校時代の回想、それと八島と会った誕生日)しか見せていないから、微妙に特別感を見せている気がする。まあ現時点でスカートに見えるだけで、ガウチョかもしれないけど。
真修が引越の手伝いを申し出たときは自然に断っているが、これは想定して来たのだろうか。でも、引越の手伝いをするのでなければ、上京したその日に会う意味って全然ない気がするけど。19話で、会ったり話をしたりするのはすごく慎重になる必要があると自分で言っているのだから、他に誰もいない状況で食事に行ったりしようとは考えていなかったと思うのだけれど。まゆがいればともかく。逆に、真修は引越の手伝いをしないのなら、そもそも何しに来たんだろう・・・と思わないでもないが、これはまあ会いたいのだから仕方ない。
聡子のことを、居心地がいいの緊張する、と感じているのは、聡子が作っている壁を感じているのだろう。小学生の頃聡子が見せていた笑顔とは違う、と。
マンションについて、聡子が真修を上げなかったのは、単純に荷物がなにもない=椅子すらない、からではないだろうか。真修を上げてもよいかというのは考えてきているだろうから、駄目だと判断したのならばそもそも言い出さないはず。
真修の日常を聞く聡子は、保護者になろうとしているように見える。他の行動からはやや辻褄が合わないけれど、「『少しでも』話せることなら教えて」と言うのは、相手に普通以上の関心を持っているという意思表示だから。
話しながら、この駅に来てみたかった、と水を向ける真修に対し、聡子は横を向いたあとに話をはぐらかす。そういう話をさせないようにしなきゃいけないのに、失敗したと思ったのだろうか。
同級生の別れ話をしていて、終わりがわかっているなら3分でも2年でもそれ以上でも待てる、と言うのは明らかに聡子に向けた言葉。3分というのは動画の再生時間でもあるけど、聡子が荷物を置くのに待ってと言った時間だから、聡子も自分のことを待つ時間だとピンとくるだろう。そして、今はまだ真修との関係を戻せない、まだしばらく待てと言われるのなら、待つという宣言か。19話の電話で聡子が一度拒絶したし、その事情は今でも変わっていないのだから、待たなくてはいけないかもしれないと頭ではわかっているとアピールしているのか。
それに答える聡子は、9話で別のサッカークラブを勧めたときのように、一般論で答えている。あのときよりも真修に対する気持ちは現れているが、真修の視点からは空虚な言葉に見えている。9話では、本心をさらけ出した真修は聡子の心を動かしたが、今回はどうなのだろう。聡子はおそらく、真修がそういう意識を持っていて、それを言わせないように振る舞ってきているから、言わせてしまった場合のことも考えてきているとは思うのだが。それでも、ペットボトルの蓋を落とす程度には動揺している。恋人、という単語を出してしまったな失敗だったんじゃないかなあ。
思いを告げる直前、真修が振り返った動画はしっかりした長さ。2年が3分で振り返れるのに、プールが75分とか。プールは菜緒たちと遊んでいた時間のほうが長いだろうに。
2015年と1年間違えているのはケアレスミスかな。多分単行本では直るのだろう。
すべてが元通りになる夢を見ていた、と夢を強調しているのは、今のままでは戻れそうにないと感じたのか、もっと先へ進みたいと思ったのか。まあ両方だろうけれど、今の聡子からは、関係を切られてしまうリスクを強く感じたんだろうな。
さてこれを受けて聡子はどう答えるのだろうか。思いついたのはこんなところ。
- 真修の気持ちを受け入れる
- 今はダメだ、大人になるまで待てと告げる
- 今はダメだ、大人になるまでもっと周りを見て過ごせと告げる
- 真修をそういう対象として見てはいない、と断る
- はぐらかす
1番はあり得ないかな。受け入れるのであれば、その前段で一般論をぶつ必要がない。まゆに「禁断の年の差恋愛」と言われたときの反応からしても、真修の恋愛感情を受け入れるとは思えない。
5番もないと思う。19話で真修の成長を認めて、ある程度大人として扱おうと考えているから、真摯に対応すると思う。
ありそうなのは3番かなあ。聡子自身が真修に恋愛感情を持っているかどうかははっきりわからないけれど、真修が聡子に恋愛感情を持つことは健全ではない、と思っているフシがある。その気持に真摯に答えるのなら、頭ごなしに否定するのではなく、大人になるまでもっと視野を広げて生きろ、と言うのが一番自然な気がする。
2番は聡子自身に恋愛感情があるのが前提だから、現時点では難しそう。
4番は逆に、恋愛感情がないことが前提だから、これはこれで微妙に違う気がする。しかし、聡子にその気が全くなければ、これも真摯な態度であることに違いはないから難しいな。
21話で言った「やらなきゃいけないこと」は、真修にとっての one of them になることなんじゃないかなあ。
小学生の真修から聞いた最後の言葉は「いなくならないで」だった。19話で一旦別れを告げようと決意したけれど、本心から出た言葉は「また会えるよ」だったのだから、それを聞いた真修の気持ちを軽々に裏切るとは思えない。新居の場所を抵抗なく教えたこと、家にあげようか逡巡したことも含め、「気軽に会えるその他大勢の一人」になろうとしている気がする。聡子が求めていたのは、真修との「ささやかな流れていく日常」だったのだから、特別な関係である必要はない。もちろん距離感は特別なのだろうけれど、それは常に真修がいなくてはならない、という性質のものではなさそう。ある意味ずるいのだけれど、恋愛関係ではない特別な関係、という中途半端な立ち位置を維持するのが、聡子が求めるものではないだろうか。それは、仮に真修に恋人ができても成立しうる関係だろうから、真修に年齢相応の喜びを知ってもらうことと矛盾しないし。
まあ、最終的には真修と聡子が恋人もしくはそれ以上の関係になってほしい、第10話で想像した未来の姿がラストシーンであって欲しい、と思う一読者としては、上記の推測は見当はずれであってほしいのだけど。
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うしろさんは元々ヤンマガを読んでて移籍してきた私少をたまたま読んだ感じですか
返信削除ですねえ。
返信削除19話をいきなり読んで、何じゃこの話は・・・と思っていたのですが、21話を読んだあとpixivだかコミックDAYSだかで試し読みしてからハマりました。
ちゃんと1話から読んでみたかったですね。