21話まで掲載されている現時点でも最も辛く、だが最も重要な回。
【ストーリー】
会社で、マグロのストラップがなくなってしまったことに気づいた聡子。金具が緩んで、どこかで落としたのだろうか。探している聡子を椎川が呼び出す。いつもと違い深刻な表情。
会議室で重苦しい空気の中、聡子が用件を聞くと「NTJの早見さんって知ってるよな」と椎川。真修の父だ、と気づいた聡子に椎川は、会社にクレームっがあったことを告げる。詳しくは聞いていないが、父親が認めていないことを聡子が真修にしているのではないか、一度互いに身分を明かして直接話しをしたが、隠し事をされている、そういう社員はどうにかしてほしい、との内容。真修とは、一度会ったことがあるサッカー少年のことだな、と確認する。
聡子は早見と話をしてサッカーの練習については許可を得たこと、それ以外の話はしていないことを答える。回転寿司のことは説明していないのか、とつぶやく椎川。早見が言うには、初めて真修を回転寿司に連れて行ったら、真修にとっては初めてではなかった、よくよく聞いてみたら・・・
椎川が話をしているところを遮り、聡子は真修と過ごしてきたすべてを告げる。練習試合の送迎をしたこと、そのお礼がしたいと言ってきたから自分が食べたいものを一緒に食べに行ったこと、勉強を見てやるために部屋に上げたこと、プールに連れて行ったこと、弟がいなくなったとき家に上がったこと、真修を泊めたことがあること・・・
呆然とする椎川は、家に泊めたことは聞いていないことに気づく。もしそんなことを早見が把握していれば間違いなく言ってくるだろう、なのに聞いていないということは、早見は真修が一泊したことを知らないのではないのか。子供がどこにいても気づかない親なのか、とつぶやく。そして、聡子が真修に入れ込むのは、「かわいそうな子だから」なのだろう、と言う。
それだけが理由なのかと自問する聡子。家のことはよくわからないが、とにかく真修にゆっくり眠れる場所を与えてやらければと思った、と語る。そして、早見が望む処分は、退職も含め何でも受けると告げる。
処分は上が決めることだが、心の準備だけはしておけ、と椎川。聡子に下された処分は、9月15日付での仙台への異動だった。
処分を受け入れ、異動の準備をする聡子。長い髪はバッサリ切った。うつろな目で、真修の後ろ姿に似た子を見つめる。
帰宅すると電球が切れているが、もうすぐ出ていくからいいや、と思う。全部消していかなきゃ。
送別会で、後輩からなくしたストラップの代わりをもらう。実家から電話がかかってきて、一旦店を出て話す。電話を切ったところに椎川が出てくる。タバコを貰おうとしたんだ、と言うが、聡子は吸ったことないと答える。じゃあいいや、と店に戻ろうとする椎川に聡子は、仙台への異動を斡旋してくれたのは椎川だと聞いた、と感謝の言葉を告げる。もともと人がほしいと頼まれていたんだ、と椎川。ストラップが目に留まり、それ絶対つけないだろうと言う。こないだまでつけていたのは、真修にもらったものかと聞く。
それに答え、聡子は真修に手を差し伸べたのはかわいそうだったから、しかし本当は真修が自分に手を差し伸べてくれていたのだ、と言う。いろいろ与えようとしたつもりだったのに、むしろたくさんもらっていたんだ。もらいすぎたから全部なくなったんだろう、とつぶやく聡子。じゃあなんであの時俺の・・・と言いかけてやめる椎川。
翌朝聡子が家を出たあと、真修がやってくる。ドアの前にはサッカーボールが置いてある。呼び鈴を鳴らすが誰も出ない。通りかかった人が、聡子が引っ越したことを教える。
真修は駅に駆けつけるが、聡子は見つからない。電話で話をしている人を見かけ、思い立って帰宅し、聡子の携帯に電話をかける。
聡子は新幹線で寝ていた。仙台について携帯を見ると、留守電が3件入っている。1件は実家から、何時に着くのかとのメッセージ。2件目は真修、俺が父さんに言ったから・・・と謝るが、すぐに切れてしまう。
3件目も真修。サッカーボールはいらない。もう何ももらわない。何も欲しくない。だからお願いします。いなくならないで。
【感想・考察】
辛すぎる。何回読んでも泣ける。辛すぎるから、カットも引用しにくい。
椎川が「多和田」と呼びかけるのは初めてじゃないかと思ったが、第9話で聡子がサッカークラブを探しているところで「多和田」と呼びかけていた。この時点で、不穏な空気を感じ取っていたのだろうか。
最初聡子に問いかけるときは、探りを入れるような話し方。聡子が何をしてきたのか正確には把握していないことと、どれだけ深刻に受け止めるべき話なのかを考えながらなのだろうか。
真修を一泊させたことがある、と聞いた瞬間から、明らかに表情が変わっている。はじめは驚きだが、その後は聡子のことを守ろうとしているように見える。
異動の辞令は平成28年9月15日付とある。カレンダーを調べてみたら(暇人だなあ・・・)8月28日は日曜日だった。ということは、真修と花火をしたのは8月26日か。そうだとするとこの話は、最短で27日か28日に早見が真修を回転寿司に連れていき、29日にクレームを入れてきたということになる。そこから異動日まで2週間なので、会社として最短で対応すべき案件、それだけ早見もしくはその会社が重要な取引相手ということなのだろう。
ついでに言うと、5月はGW以外は祝日がないので、聡子が真修に出会ったのは金曜日、練習の約束をしたのは土曜日だろう。「明日から19時に駅前集合」とあるので練習開始は日曜日、翌週金曜日がクラブのテストなので、練習したのは5日だろうか。しかし聡子は、会社から5回ジャージ姿で帰宅しているので、だとすると日曜が出勤日の会社なのか(野暮なツッコミ)
ああでも、代わりに平日休みを1日挟むと考えれば、おかしくないのか。
早見の行動はちょっと理解しがたい。名刺交換をしたとはいえ、会社組織を離れた場で出会った人物、そして会社と関係ない活動の話だから、クレームを会社に入れるのは明らかにおかしい。聡子が信用ならない人物だ、と判断した結果だろうが、それにしても聡子に一度も問いかけることなくクレームを入れるのは異常だと思う。会社としても、社員のプライベートにまで立ち入ることは原則としてできないはずだから、本来は対処に困る案件のはず。それが2週間で異動させるということは、それだけ早見もしくはその会社の影響力が大きいということなのだろうが、気持ち悪い。
あるいは、ただの主任に過ぎない椎川が聡子の異動先を斡旋できるということは、会社規模がさほど大きくないのか。それならば、取引先に忖度してすぐに左遷、というのもわからなくはない。椎川が会社にとって大きな影響力を持つ超重要人物だという可能性もなくはないけれど。第3話で自分のことを「上司」と言っていたし。普通は主任程度だと、自分のことを上司だとは思わない気がする。
真修から「もらいすぎてしまった」と語る聡子は、自分にとって真修がどれだけ大切な存在だったのかを思い知ったのだろうか。与えているつもりなのにもらっているもののほうが多い、それが自然な感情で出来ているなんて、人間関係として理想の極みだなあ。この年齢差、立場の違いさえなければ、万人に祝福される関係なのに。
それを聞く椎川は、かつて自分がそういう存在になれなかったことを悔やんでいるように見える。なにか言いかけてやめたのは、自分では聡子の求めるものを埋めることが出来なかった、本当に欲しいものに気づくことができていなかったことに気づいたのか。椎川と聡子それぞれの回想からは、椎川の気持ちが空回りしていたのであろうことが読み取れるし。自分は真修になれなかった、そのことを受け入れた瞬間ではないかと思う。
聡子がサッカーボールを置いていったのはどういう心境だったのだろうか。自分で持っていくのは辛かったのか、それとも真修に残してやりたかったのか。真修との思い出で、形あるものはストラップとサッカーボールしかない。ストラップはなくしてしまったのだから、サッカーボールを置いていったら、真修を思い出せるアイテムはなくなってしまう。やはりこれは、真修を忘れるためなのだろうか。
真修が聡子の電話番号を挟んでいたのは、図鑑のターコイズのページ。聡子が好きだと聞いて、何度も調べたのだろうか。これから真修は、好きだったのに思い出せなくなるものとして、ターコイズが増えるのだろうか。
留守電のメッセージを聞きながら、聡子は座り込んでしまう。言いたいこと、伝えたいことはたくさんあったろうに、何も言わずに去っていった、その悲しさが痛いほど伝わってくる。
第25話のネタバレ感想
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第13話が収録されている3巻はこちら。
19話から月刊アクション(双葉社)から週刊ヤングマガジン(講談社)に月イチ連載で移籍した関係で、4巻までは双葉社と講談社の両方から出ているが、カバーデザインも収録内容もすべて同じだそうで。
双葉社 | 講談社 | kindle |
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