2018年8月11日土曜日

私の少年 第2巻 第9話 嘘(ネタバレ感想)

【ストーリー】
聡子は、真修の様子がいつもと違うことに気づく。怪我でもしたら大変だし、もうすぐ夏合宿だから、と練習を切り上げる。また来週金曜日お願いします、と真修。
町を歩いていて、真修のサッカークラブのロゴマークが入ったバスを見かけた聡子に、菜緒が声を掛ける。これから夏合宿だと言うので、じゃあ真修も乗っているのかと聞くと、真修がクラブを辞めたと聞く。
真修に聞くと、自分からやめたという。弟がいなくなった日のことを父親に隠していて、あの日何をしていたと聞かれたので「サッカーの練習」と嘘をついた、と。私が嘘をつかせてしまったと自分を責める聡子。



代わりに入れそうなクラブを探しているところを、椎川に見咎められる。親戚でも何でもないのにやたら懐いて、挙げ句金まで出してもらっているなんて知ったら、親ならどう思う、と言われて返す言葉がない。誰かに優しくすることで、自分の存在価値が上がると思っているんじゃないか、とまで言われてしまう。


帰り道自問して、自分はただ、真修に幸せになってほしいだけなんだ、と言い聞かせる聡子。


翌日帰宅すると、雨の中真修が来た。明日も雨だから練習中止だと言いに来たのだと言う。携帯の番号渡しているのだから電話すればいいのに、と言い、家に上げて体を拭く。
持ち帰ったクラブのパンフレットを見せる聡子。毎週金曜日の夜に練習と書いてあるのを見て、真修は悲しそうな表情で「金曜日・・・は聡子さんと練習」とつぶやく。自分よりもちゃんとした指導者に、父親の理解のもと教わったほうがいい、と語る聡子。本心ではないと思っている言葉はすらすら出てくる。自分にとっては嘘でも、真修にとっては間違いではない、私にしか頼っちゃいけないと思わせてはいけない、と思いながら言い続ける。言いながら真修の目を見ることが出来ない。真修は悲しい目で聡子を見ている。


帰ろうとする真修に、聡子は「お父さんにそれを見せたらサッカー続けられるかも」と声を掛ける。
しかし真修は泣きながら振り返り、練習を続けていたのは聡子に会いたかったからだ、と告げる。聡子は反射的に真修を抱きしめてしまう。


【感想・考察】
冒頭、真修が「また来週金曜日」と言うことで、金曜夜の練習が定例化していることがわかる。水曜でも木曜でもなく金曜って、聡子はそれで大丈夫なのか。単に真修(というよりも弟の塾)の都合なのか、それとも聡子は金曜日に他の予定を入れたくないのか。

真修の父親がどういう人物なのか、描写が始まる。
弟が帰ってこなかったことを報告しなかったことを怒る、それはいい。親として当然だろう。しかし、次に出てきた「あの日 遼一放っておいて 一体外で何してたんだ」というセリフに強烈な違和感を覚える。真修は弟が友達の家に行くということを把握していて、帰ってこなかったのは弟の勝手な行動。「ちゃんと言い聞かせたか」ではなく「外で何してた」という言い方は、真修に行動の自由を与えていないことを示している。
そして真修の、自分で言った、辞めたほうがいいと思ったから、と言うのを口ごもるのは、父親の期待することしか言ってはいけない、いびつな力関係を示しているのではないだろうか。

聡子が真修のサッカークラブを探していることについての、椎川の発言は至極当然だと思う。読者の誰もがツッコみたいところで、そういう役回りなのか。まあそれでも、平然とセクハラ(名前呼びを嫌がる意思表示をしているのに「聡子」と呼びかけるのは文句なくセクハラだ)やってのけるオマエに言われたくねえよ、とは思う。
「優しくすることで存在価値が上がる」というのは、真修の思考ではないかと思う。おそらく真修は、

帰り道、聡子がドラッグストアでアイマスクと酒を手に取っているのは、聡子が眠れなくなってきたことを暗示しているのだろう。アイマスクを使っている描写はないけれど、翌朝体温計を探していることから、真修から受け取っていた癒やしが薄れていることがわかる。その体温計も、そもそも枕元に置いていないので、真修と出会ってからは本当に開放されていたのだろう。

真修に幸せになってほしいだけ、と回想で出てくるイメージはどれも、真修が子供らしい笑顔をみせているところ。聡子にとって真修は、離婚して親権を取られた子供を見るような目なのではないだろうか。
真修にサッカークラブを紹介するとき、聡子が「自分の言葉じゃない」と思っているのは、聡子も真修と一緒に練習したいと思っているからなのだろう。

そして真修は、サッカーの練習よりも、聡子と会えることのほうが大切だったということを明らかにしている。最後のシーンはそれをはっきり口に出しているが、サッカークラブを辞めたことを聡子に言わなかったのも、聡子に会う口実がなくなることを恐れていたのではないかと思う。雨だから練習中止、とわざわざ言いに来たのも、電話することを思いつかなかったのではなくて、聡子に会って話がしたかったのだろう。

そして真修の本心を聞いた聡子は、感情が抑えきれなくなって真修を抱きしめてしまう。でも多分これも、恋愛感情ではない。母性だと思う。

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第9話が収録されている2巻はこちら。
19話から月刊アクション(双葉社)から週刊ヤングマガジン(講談社)に月イチ連載で移籍した関係で、4巻までは双葉社と講談社の両方から出ているが、カバーデザインも収録内容もすべて同じだそうで。
双葉社講談社kindle



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