2018年8月9日木曜日

私の少年 第2巻 第7話 境界(ネタバレ感想)

毎日読み返していると、そのたびに発見がある。
細かいところまで考えて描いてあるなあ。

【ストーリー】
友達の家に行って、ご飯までに帰ると言っていた弟が全然帰ってこない。心配になって電話をかけてみたら、随分前に帰ったと言う。混乱する真修を落ち着かせるため、聡子はまずは家に帰ろう、書き置きがあるかもしれないし。ついていってあげるから、と答える。


入ってよいか躊躇するが、今そんなこと言ってる場合じゃない、と自分に言い聞かせる聡子。はじめて真修の生活環境を目の当たりにする。そこは掃除をした痕跡はなく、冷凍食品のガラが放置してある環境。6月だと言うのに、床にはセーターまで落ちている。


書き置きがないとこぼす真修。弟の部屋はどうかと聞く聡子。2階だ、と階段を駆け上がる真修。ついていくべきかと躊躇する聡子は、少し開いた引き戸に気づく。さっき開いてただろうか、と気になり、開けてみる。部屋を見ると、中には仏壇があった。真修の母と思しき遺影が飾られている。


手がかりが見つからないと焦る真修。状況を整理する。弟は、真修が出かけた時はまだ家にいた。ご飯の時間には帰るはずだが帰ってこないので、父には電話したが繋がらなかったと言う。携帯はロッカーに入れていてあまり出られないと言っていたから、見ていないのかもしれない。学校の連絡網を使おうと考える聡子だが、自分の存在を説明する言葉がないことに気づく。


弟が立ち寄りそうな場所として、コンビニや公園などを探すことを提案する聡子。真修はすぐに行こうとするが、帰ってきたときに真修がいないのはまずいので、私が行くと聡子。もう一度父に電話、でなければ担任に電話するよう指示し、何かあったら連絡して、二人だけの内緒の番号だから、と自分の携帯番号を渡す。自分の無力さを思い知る聡子。


探しに行くのに、弟の写真を見せてもらう聡子。真修には似ていないが、母には似ているようだ。コンビニにいると、真修から「弟が帰ってきた」と電話がある。他の友達の家に行ってゲームをしていて遅くなったらしい。ひそひそ声で話す真修に、内緒とはそういう意味じゃないんだが、と思いつつ、良かったと安心する。

真修からは「ありがとうございました」と感謝されるが、実のところ聡子は何もしていない。ただの「サッカーのひと」では、これ以上踏み込めないことを痛感する。
公園のベンチで、真修の環境を思い出す聡子。冷凍食品のみの食事、6月なのにセーターが出しっぱなし、土日不在で子供だけ家においておく環境。。。あり得るが、駄目だろう、と思う。
他人だから踏み込むことは出来ないが、真修のそばに居てやることはできる、と考える。


【感想・考察】
弟が帰ってこない、父とも連絡がつかない、その状況で聡子のもとに駆け込んだ真修。学校に連絡するよりも聡子を頼るという心情になっている。
「どうしよう 俺が」と責任を感じる真修に違和感を覚える。友達の家に行くことは把握していた、そこから帰ってこないのは弟の問題であって、真修の責任ではないと思うのだが、父親から与えられた責任なのだろう。この違和感は、後々再度感じることになる。

真修を安心させるために家までついていく聡子。頼られたからにはなんとかしてやりたい、という心境だろう。家に立ち入ることを躊躇するのは当然。ここで立ち入ったことがまた、大きな転機となる。

家の中からは、薄々感じ取っていたネグレクトの気配を濃厚に感じる。冷凍食品はともかくとして、冬物の服が床に散らばっている、その状況で放置されている家庭。真修も片付けくらいしろよと思わないでもないが、しかしこれは父親が悪い。サッカーを続けるとき「送り迎えやユニフォームの洗濯など、何もしなくて良いならば」との条件を出したはずだが、そもそも何もやっている気配がない。第1話で真修が同じ服を着ていた理由も垣間見える。

母親の遺影が真修に似ていないという考察をよく見るが、これはどうなのだろう。髪質は真修に似ているのではないかなあ。面影については、弟との違いを見せるため、意図的にずらしている気がするが。

他人に真修との関係を説明するとき、うまい言葉がない関係というのは、21話まで進行している現在まで続いている問題。この微妙な関係の描き方が絶品だから、この作品にこれだけ引き込まれたのだけれど。
携帯番号を渡したとき、「二人だけの内緒の番号」と言ったのは、それを説明する言葉がないからだろう。しかし真修は、聡子の存在そのものを内緒にする必要があると受け止めたのではないだろうか。恐らく第2話で、サッカーの遠征で友達の親に同乗させてもらうことすら嫌う親を描写しているから、聡子が連れて行ったときも「お父さんには内緒だよ」って言ったのだろう。このあたり、最初からきちんとボタンを掛けることができていれば、この先つらい思いをする必要はなかったのかもしれない。

最後、真修のそばに居てやろうと聡子が決意したことは、真修の保護者に近い立ち位置を意識したことが読み取れる。真修が自分を頼ってくることについて、母親代わりの感情だと受け止めたのだろう。前回、真修と一緒にいる時間が好きだと思ったことも、家族のような感覚を抱いたからではないだろうか。しかしこれが、次の火種を生むことになる。

今気づいたが、真修の服にプリントしてある「SAY MY NAME SAY MY NAME」の文字が痛々しい。第3話では「THINGS」と、真修が周囲からモノ扱いされていることを暗示しているものだったが、ここでは「自分を気にかけてくれる人がほしい」という真修の心情を表しているのだろうか。

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第7話が収録されている2巻はこちら。
19話から月刊アクション(双葉社)から週刊ヤングマガジン(講談社)に月イチ連載で移籍した関係で、4巻までは双葉社と講談社の両方から出ているが、カバーデザインも収録内容もすべて同じだそうで。
双葉社講談社kindle



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