本巻では、神風連ノ乱が主題と言っていいだろう。
ページのほとんどは、長州の前原一誠とその周辺に割かれているが、しかし本書における重要性はあまりない。歴史上の価値というよりもむしろ、その覚悟と行動力によるものだろう。
前原一誠は深い思慮もなく、戦略もなく、ただ何となく乱を起こしただけの凡人と描かれている。それに対し神風連は、その思想の是非はあれ、目的と行動方針がはっきりしており、むしろ爽快感すら覚える描き方をされている。鎮圧に当たった児玉源太郎の描き方も鮮やかで、乃木希典との対比もはっきりしている。なるほどこれが「坂の上の雲」に繋がるのかと、妙な感動を覚えた。どっちが先に書かれたのかは知らないが。
神風連ノ乱はわずか1日で鎮圧され、秋月の乱他周囲もあっさり鎮圧されて、政府に打撃を与えたとは言い難い。西郷も立たなかった。しかし、最初から死ぬことを覚悟し、勝算がないことをわかりきった上で、敢えて死ぬために立ち上がった彼らには、武士としての美学を感じる。司馬遼太郎の筆力なのだろう。乱そのものにはほとんどページが割かれなかった、佐賀の乱とは大きな違いだ。
本巻では西日本が次第にきな臭く、不満分子が沸々と飛び出している。
西南戦争の下地は、できあがりつつある。
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