2010年1月31日日曜日

011 / 291 翔ぶが如く 九

我は官軍我(わが)敵は、天地容れざる朝敵ぞ
敵の大將たる者は、古今無双の英雄で
之に從う兵(つわもの)は、共に慓悍(ひょうかん)決死の士
鬼神(きしん)に恥(はじ)ぬ勇あるも、天の許さぬ反逆を
起こしし者は昔より、榮えし例(ためし)あらざるぞ
敵の亡ぶる夫迄(それまで)は、進めや進め諸共に
玉散る剣(つるぎ)抜き聯(連)れて、死ぬる覺悟で進むべし


雨は降る降る 人馬は濡れる 越すに越されぬ田原坂
40日にわたる激戦の末、ついに官軍に抜かれることがなかった田原坂。西南戦争を代表するこの激戦が、どれだけ熱く描かれているのかと期待したら、意外にあっさりした記述ですぐに終わってしまった。

抜刀隊の活躍についてもほとんど触れられることなく終わっている。結局田原坂を抜けなかったということは、戦局に重大な影響を与えることはなかった、と言うことだろうか。

八巻当たりから、桐野利秋、篠原国幹などが「一代の英雄」ではなく、「己の力のみを信ずる匹夫」として描かれている。戦略眼がなく、またそういった考え方を嫌っている。特に桐野は、作中何度も西郷による「彼に学問があれば人が及ぶものではない」という評価が繰り返し書かれ、また各地の暴発にも乗らずじっと時期を待っている姿が描かれているので、この急なタッチの変化は意外だった。「弱くて負けるのではない、天に負けるのだ」と言った、項羽のような描き方をされるとばかり思っていたのだが。

谷干城は熊本城を守り抜き、薩軍は後退した。
夜明けの終わりはもうすぐだ。



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