2009年5月15日金曜日

104 / 148 「残業ゼロ」の人生力

10点満点で、5点。

活性化(スキタリング)・・・45分

前提となる「『残業ゼロ』の仕事力」を読んでいないので、正しい評価ができていないかもしれない。しかし、本書を読んだ限りでは、これでもまだかなり甘めの採点。

ひと言で言ってしまえば、青臭い理想論。いや、著者は実践してきたのだから一概に理想論とは言えないのだろうが、それにしてもこの本は、所詮ホワイトカラーの文系職、あるいは経営者向けに書かれた本で、エンジニアやブルーカラーには無縁の世界だと言っていいだろう。

著者には、仕事そのものに喜びを感じる、ライフワークという発想はないらしい。単純に労働時間が長いことを悪と決めつけ、真の人生は退職後に始まるとしている。そんなものなのか。著者が日本と海外を往復するのに使う飛行機は、毎日定時で上がるエンジニアが作り上げたのか。本を作るための印刷機は、定時で上がる連中が作ったのか。これらはいずれも、現在はどうか知らないが、スタートは「モノを作り出したい」「世の中を便利にしたい」「社会に貢献したい」と考えた技術者たちが心血を、あるいは人生をつぎ込んで作り上げてきたものじゃないのか。

技術者の少なくない人数は、金銭的報酬に固執していない。自分の研究、活動がいかに社会に貢献するか、そういったものが報酬だと感じている人がいる。彼らにとって仕事は人生の喜びそのものであり、早期退職などは自己の満足感も、そして社会の発展も得られないマイナスですらある。こういった部分に考えが及んでいないのが、所詮自分でモノを作り出してこなかった、著者の限界なのだろう。

本書には残業しないことのメリット、早期退職のメリットなどたくさん書いてあるが、それらを真に受けて実践できる立場の人間がどれだけいるのか。「こういう社会はよくない」と警鐘を鳴らす価値は認めるが、たとえば今月の手形が落ちるかどうか汲々としているような会社で、社員が1ヶ月も2ヶ月もバカンスを取ったらどうなるのか。普通はどうにもならないだろうし、やっていけるようならその会社は1名分の人件費を浮かせる余地がある。

この本からは、「経営が安定している大企業」以外では仕事をするべきでない、という発想が見え隠れするように感じるのは、穿ちすぎだろうか。

第一、著者が本当にこの本の主張が正しいと感じているなら、経団連にでも、あるいは世の中の大企業トップにでもいい、直接提言すればいいじゃないか。末端の意識改革も重要だろうが、「仕事できるだけでありがたい」今の日本では、本書に書いてあることを実践すれば職を失うリスクの方が高い気がする。

5/16追記:
なぜ本書にこれだけ反感を抱くか、わかった。
「仕事してる間は本当の人生ではない」という主張が、24時間態勢で奉職している自衛官、生涯現役で365日働いている農家の方などを、バカにしていると思えるからだ。
「本書はホワイトカラー向けに書いたものです」と書いてあればまだ許せたかもしれない。しかし、劣悪な条件で社会を支えてくれている人たちを、上から見下してモノをいう態度が許せないのだ。
著者は、「そうだ、葉っぱを売ろう!」を読んだら、「80過ぎても仕事が生き甲斐なんてなんて惨めな人生だ」とでも言うのだろうか。



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