2008年10月29日水曜日

036 一流になる人 二流で終わる人

10点満点で、5点。微妙な読後感。

プロ棋士の米長氏と、ノムさんの対談。対談というには、一つずつの発言が長く、インタビューをまとめた本かもしれない。

それぞれの勝負論が語ってあって、なかなか面白い。お互いの考え方が食い違っているところなどもあり、それぞれがその根拠を語っているところなど、どちらにも理があって興味深く読めた。

しかしそこまでで、対談という形式のせいか、一つずつの話題が掘り下げられることなく、表面的なものに終わっている感がある。これは、俺自身がプロ棋士というものをよく知らないせいだろうが、ノムさんのパートは面白いが、米長氏の部分は読み飛ばしてしまいかねない内容だった。

勝負師として、両氏を知っている人が読めば、それなりに楽しめる本だろう。俺には少し向かなかった。



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2008年10月28日火曜日

035 97敗、黒字。楽天イーグルスの一年

10点満点で、7点。

何十年ぶりかの新規参入球団として話題になった、東北楽天ゴールデンイーグルス。
その一年を、球団経営という視点から振り返った本。

個人的には、楽天は「ライブドアが耕した土地を後からさらっていった」という印象が強いので、好きではない。選手や監督に好悪はないが(一場は嫌いだが)、楽天という組織そのものが嫌い。だから、否定的な感情を持ちながら読んだのだが、考え直した。

楽天の球団経営といえば、確か初シーズン開幕前、NHKでチーム作りについて取り上げた特番を見た覚えがある。確か、選手の年俸として支払える金額を上げて、この選手ならいくら、この選手を取る金が有ればこの選手とこの選手が取れる、と、かなりシビアな話をしていた。その番組を見たときは、これは「ビジネス」であって、「スポーツビジネス」ではないな、と感じていた。話題の主眼はあくまで経営としてペイするか否かであり、プロスポーツとして夢を売るスタンスが感じられなかった。

しかし、この本を読んでみたら、きれい事と現実の金銭問題と、両立させるための努力をいかに払ってきたのか、少し思い直した。赤字垂れ流し当たり前の球団経営とどれだけ違うのか、その考え方と動き方を追っていて、コレは新しい風かもしれない、と感じた。

それでも楽天というチームは嫌いだが、球団としては頑張って欲しい。そう思い直すことができた。



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2008年10月27日月曜日

非書評:育児:ウィリーバグ

現時点で、10点満点で8点。

武蔵丸(仮名)の1歳誕生祝いに購入。ネットで発見して、対象年齢が18ヶ月以上と書いてあるのに、俺が欲しくなって購入した。

ほぼ思った通りの大きさで、1歳の武蔵丸(仮名)がまたがるには少しだけ大きい。またがると足が完全にはつかず、まだまたがって進むことはできない。でも、押して進むことはできるので、部屋を片付けるとにこにこしながらいじり回していた。

もうちょっと大きくなって、またがれるようになったらもっと遊ぶだろう。木質のデザインは見た目にも柔らかく、見ていてほのぼのする。いい買い物をした。



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2008年10月26日日曜日

034 兵士に聞け

10点満点で、7点。

自衛隊について、タイトルの通り「兵士」に相当する、曹士の視点を中心にまとめられたルポルタージュ。「防大生」というだけで差別的な扱いを受ける学生時代、過酷な割に名誉以外得るもののない陸自レンジャー訓練、逃げ場とプライバシーのない護衛艦乗り、僻地に溶け込もうと苦戦する空自レーダーサイト、そしてPKO部隊・・・読めば読むほど、国防の最前線を担う自衛隊が、こんな扱いを受けていていいのかと切なくなる。

著者のスタンスは右でも左でもなく、中立的な視点で語っているので、割と読みやすい。右の視点から見れば左よりの批評が気になるだろうし、左から見れば少なくとも自衛隊を否定していない時点で抵抗があるだろう。それにしても、自衛隊の現状を知る、という意味では、どちらの思想を持っていても読むべき本かと思う。

奥尻の地震では「自衛隊員の家族だから」という理由で、隊員の妻子が同じ被災者であるにもかかわらず救援物資を受け取れなかったこと。PKOでは「すべて現場の判断」と言うことにされ、ROEもなく武器の携帯も許されずに戦場に送られた現場の悲哀。日本という国は、繁栄と軍事アレルギーのしわ寄せを、物言えぬ自衛隊に押しつけてこれまで生きてきたのだろう。

いつの世も、苦労するのは最前線。



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2008年10月22日水曜日

033 磁力と重力の発見<1> 古代・中世

難解につき採点不能。

古代文明の時代からニュートンまで、磁力と重力にスポットを当てて、物理学の発展をつぶさに追った本。全3冊で、古代ギリシアから話は始まる。

物理というよりも歴史の本といった方がいい気がする。近代科学が成立する前の時代なので、理論とそれを裏付ける実験、という体系の構築ではなく、あえていうならば思いつきで理論を作り上げられた時代を語っている。

膨大な資料を元に著された本で、その道の人が読めば、かなりの価値が見いだせる本だろう。しかし、俺の知識/学力では、この本の真の価値は見いだせなかった。科学が迷信の域を出なかった時代に、進化しているわけでもない理論の変遷をつぶさに追われても、退屈な感が否めない。おそらく、俺が読んで面白いと感じるのは、締めくくりの第3巻なのだろう。

丁寧に追った本だから仕方ないが、冗長に、あまりに冗長すぎる内容に思えた。アシモフなら10ページくらいでまとめている内容だろう。この本のページ数を費やしたことに価値があるのだろうけれど。



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2008年10月19日日曜日

032 ライアーズ・ポーカー

10点満点で、5点。

ウォール街の帝王として君臨した、ソロモン・ブラザーズではいったい何をしていたのか、実際に働いていた著者が赤裸々に語った本。
・・・らしいのだが、証券・債券取引の知識がない俺には、何がどう「赤裸々」なのかはよくわからなかった。「騙される方が悪い」というスタンスで物事を進め、一瞬で何百万ドルも稼ぎ出す、マネーゲームに興じていることだけはわかったが。

中身がよくわからずに憤ってみるが、実際に何かを生産するわけでもない連中が電話一本で何百万ドルも稼ぎ、それでいてボーナスが少ないと不平をこぼし、あげく失敗したら金融危機を引き起こして税金を投入させている、こういう仕組みは何か間違っている。そんな気がする。



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031 あぁ、阪神タイガース―負ける理由、勝つ理由

10点満点で、6点。

ノムさんが阪神監督時代を振り返り、なぜ勝てなかったのか自戒を込めて取り上げている。
当事者の弁だから割り引いて読む必要はあるだろうが、言っていることは正論で、頷くばかり。与えられた戦力でベストを尽くすのは監督の仕事、監督がベストを尽くせる戦力を整えるのはフロントの仕事。この当たり前のことが、いかに阪神ではできていなかったのか。なぜ星野にはそれができたのか。ノムさんなりの解釈ではあるが、面白くかつ的確に分析している。

「考えて野球する」ことがいかに大事か、弱いチームが強くなるのがどれだけ大変か、強いチームが弱くなるのがいかに簡単か、よくわかる。

「マネー・ボール」のビリー・ビーンとは対極に位置しそうだけれど。



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030 自殺死体の叫び

10点満点で、7点。

死体監察医としての経験から語る本、今度は自殺にスポットを当てている。
自殺を決行してから死に至るまでの苦しみ、残された死体の損傷、「美しい自殺」の嘘など、淡々と残酷な現実を描いている。
おそらく俺が自殺することは死ぬまでないが(当たり前だ)、もしも軽い気持ちで自殺を考えている人が読んだなら、いくらかでも抑止効果はあるだろう。そんなことは考えずに読んだけど。

雑学書として読むには、純粋に面白い。



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029 死体検死医

10点満点で、7点。

司法解剖に長年携わった著者による、検死について様々な話題を提供する本。
「死後も名医にかからなければならない」とはけだし名言、殺人事件が一歩間違えればただの病死として処理される、その土俵際を担う監察医の経験談が面白い。

本書で再三述べられているが、これだけ重要な役割なのに、社会的認知度も評価も低く、絶対数が足りないため一部大都市以外では適切な対応が取られていない、そのことが一番恐ろしい。医師不足はほぼ全診療科で深刻な問題ではあるが、それにしても監察医の不足など、普段はまず目にしない話題。

医師の目から見た事件レポートいう読み方もでき、推理小説を読んでいるような、科学エッセーを読んでいるような、なかなか妙な読後感があった。面白い。



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028 戦後合気道群雄伝―“世界の合気道”を創った男たち

10点満点で、6点。

タイトルに偽りあり。
群雄伝ではなく、合気会の歴史、若しくは二代目道主・吉祥丸先生の伝記といった方がよい。翁先生、あるいは塩田先生について書いてある本は多いが、吉祥丸先生を主として取り上げている本は余り多くない気がする。

弟子を選び、自らの研鑽の合間に弟子が技を盗むに任せた翁先生の時代から、技法の一般公開や門戸の開放、組織作りへと動いて合気会を大きく育て上げた、吉祥丸先生の苦労がよく描かれている。

吉祥丸先生には武勇伝らしきものがほとんど伝わっておらず、それ故に合気道家としての力量を疑問視する声は少なくないが、著者は吉祥丸先生をよく知る人たちへのインタビューを経て、その力量は疑いなきもの、としている。一外野の俺にはよくわからないが、組織の分裂や対立などを経てもなお、武勇伝らしい武勇伝が伝わらないそのことが、「争わない」という合気道の精神を物語っているのではないかという気がする。

冒頭に書いたとおり、タイトルと違い群雄伝とは言い難い内容なので、組織作りなど政治的な話は多いが、他流試合だの道場破りだのといった話は出てこない。また、吉祥丸先生の活動が主なので、阿部正氏や藤平光一氏などが海外に普及するのに苦労した、という話は出てくるが、具体的に何がどうだったという記述はほとんどない。そこが残念。

著者は「武道は一人一派の世界なので、独立して当然」とは書いているが、構成や文章からは、合気会を離れていった人たちについて好意的に書いてある部分は余り感じられない。特に塩田先生と富木先生については、「前門の虎後門の狼」としてよく書いておらず、ことに富木先生については「合気道を柔道に取り込もうとした」というスタンスで書いてあるので、少々気になる部分があった。

群雄伝らしき記載がほとんどなく、阿部正氏が藤平光一氏に果たし状を送りつけた話など、後述すると書きながら記述がないなど、本としての完成度はどうかと思う。しかし、合気会という組織がどうやってできあがり、また秘伝武道から大衆武道へ門戸を開放するまでの道程など、内容は興味深いものがあった。

吉祥丸先生の著作からの引用が多く、そちらを読んでみたいと思った。



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027 戦争における「人殺し」の心理学

10点満点で、9点。

興味深いタイトルに惹かれて読んでみたが、まさに「心理学」の本だった。人を殺すと言うことはどういうことなのか、殺したことのある人物、殺せなかった人物などから、膨大なインタビューや資料を基に考察している。

本書は決して戦争を肯定するわけでも否定するわけでもなく、淡々と「兵士として敵を殺害すること」について、殺害に至るまでの心理的な障壁と、殺害したあとの心の傷について分析している。

結論だけ読むと空虚に思えるかもしれないが、人間の本能としては、「殺すくらいなら殺された方がいい」とすり込まれているのではないか。第二次世界大戦では米兵の発砲率(殺傷率ではない!)はわずか15〜20%程度でしかなかったし、組織的に行動していないときは敵兵を見逃したという実例が山のように出てくる。その後の研究によりベトナム戦争での発砲率は90%を超えているが、一人殺害するのに5万発以上の銃弾を必要としている。それは武器の性能が悪いわけでも遠距離での銃撃戦が多かったからでもなく、「わざと外す」兵士がいかに多かったかを物語っている。

そして、不幸にして(そして任務に忠実であるが故に)人を殺めてしまった兵士の心の傷についても深く調べてある。特にベトナム戦争についてはかなりのページ数を割いており、国のためと信じて戦場に赴いた兵士たちがどんな仕打ちを受けたのか、痛々しい事実が書かれている。

「軍人として、兵士の任務を果たそうとしない彼らに怒りを覚える」と書きながらも、「本質的に人を殺そうとはしない、自分が殺されるリスクを負っても発砲しない、そういう人類を誇りに思う」と、複雑な心境をのぞかせるコメントが、著者の心境を雄弁に語っているのだろう。

最終章の「アメリカの殺人」で触れられた、映画やゲームにおける暴力描写がいかに殺人への抵抗感を和らげているかについては(ベトナム戦争で発砲率を上げるために行われた教育と本質的には同じことだ)、考えさせられるものがあった。薄弱な根拠を元に「ゲーム脳」云々語られても聞く耳を持てないが、この本には説得力がある。

500ページほどの本だが、6時間近くかけて読むことになった。時間をかける価値はある。



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026 戦力外通告

10点満点で、4点。

同名の別の本と間違えて、図書館で取り寄せた本。手にとって初めて、「この本じゃない!」と気づいたが、せっかくなので読んでみた。

リストラされて無職の55歳の男と、夫が女を作って家を出てしまった54歳主婦の不倫物語。無職のくせに毎日のように銀座、六本木と飲み歩いているし、「乗り換えが面倒だ」とちょっとした移動にタクシーを使う、「失業保険が切れて不安になってきた」という発言が冗談としか思えない生活。タイトルと、内容からも確かに「意に沿わぬ形で不要となった人たちの奮闘」を描きたかったのだろうが、この内容なら主人公は定年退職して悠々自適の生活を送っている男でも同じだった気がする。

作品中様々な問題が出てくるが、どれ一つ解決することなく、主人公の問題も解決することなく、何となく終わっている。妙な読後感。事件はいくつか起こるのだが、どれもインパクトのあるものではなく、作品中最大の事件もあっさり片付けられてしまっている。淡泊な印象。こういう小説もあるんだな、と妙に納得した。「日常風景を切り取った作品」とでも評されるのだろう。

そもそも想定している読者層は50代以上なのだろう。俺みたいなのが読む作品ではなかったということだ。

書店で手に取ることは絶対にないだろうから、図書館で、しかも取り寄せだからこそ、一生読むことがなかったはずの本を読めた、と考えることにしよう。



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025 死の雑学―舌を噛み切っても死ねない理由

10点満点で、6点。

「死体は語る」の著者による作品と言うことで興味を持って読んでみたのだが、良くも悪くもタイトル通りの作品。ただの雑学本。

「コレは!」と感じ入るところもなく、「なんと!」と驚くところもなく、「へー」「ふーん」といった感想しか持ち得なかった。

実はほかの著書は読んだことがないのだが、「死体は語る」から読んでみるかな。



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024 御乱心―落語協会分裂と、円生とその弟子たち

10点満点で、7点。

昭和53年の落語協会分裂について、末端の当事者として振り回された著者による暴露本。暴露本という位置づけのようだが、むしろ回想録、あるいはドキュメンタリーといった方がいいかもしれない。

内容は文句なしに面白い。師匠には逆らえない芸の世界、その師匠を担ぎ出して暗躍する圓楽と談志、振り回される圓楽以外の圓生の弟子たち。何が起こっているのかもわからないうちに運命を決められてしまう、弟子の悲哀が乾いたタッチで活き活きと描いてある。我ながらよくわからない表現だけど。

おそらくこの本に書いてあることは、真実なのだろう。事実はどうかわからないが、著者から見た真実である、という匂いはする。Wikipediaによると、ボロカスに書かれている言っても過言ではない、圓楽からも「すべて事実」と言われているらしい。

この本のイメージでは、談志は小悪党、圓楽は大悪党。楽太郎が腹黒いのもある意味当然か。ちょっと見る目が変わった。



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023 四国はどこまで入れ換え可能か

10点満点で、7点。

たぶん、発見したのはピタゴラスイッチからリンクをたどっていって、何かで見かけたのだと思う。タイトルからして面白そうだったので、図書館で予約して借りてみた。まさか漫画とは思わなかったけれど。

何というか、ほのぼのとした中に鋭い着眼点が潜んでいて、面白かった。発想で楽しませてくれる。表題作の「四国はどこまで入れ換え可能か」は秀逸。面白かった。

肩肘張らずに楽しめて、それでいて頭が柔らかくなる気がする。いい漫画。



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022 シャンペン・スパイ

10点満点で、7点。

イスラエル情報機関、モサドのスパイとしてエジプトで活躍した著者の回想録。内容が内容だけに、どこまでが事実でどこまでが創作かはわからないが、必要以上の誇張と思える箇所もなく、概ね事実に沿った内容なのだろう。

スパイとしての技術などは当然機密事項であろうから、具体的な手段などの記載はほとんどないが、ドイツ人の金持ちとしてエジプト高官に取り入っていき、情報を探るではなく自分から話すように仕向けていく、その展開がスピーディで面白い。コレは何年分もの活動を短くまとめているせいだろうが。

また、スパイということが発覚してから、裁判で死刑を免れるための工作、刑務所での生活、そして捕虜交換による解放と、最後まで発覚しなかったはずの自らがイスラエル人であることがバレていたことがわかること。事実だとすると信じがたいが、それでも本文の記載で十分に説明がつくその背景。事実は小説よりも奇なりということか、よくできた説明なのか。いずれにせよ面白かった。ちなみに、著者はその後長生きしているが、妻は逮捕後の拷問が元で、早くに亡くなっているらしい。

タイトルの「シャンペン・スパイ」とは、その派手な金の使い方から「シャンペンの風呂にでも入っているのだろう」と言われてついたあだ名。そしてその具体的な手法は、同じ著者の「スパイのためのハンドブック」により詳しく記載がある。本としては、「スパイのためのハンドブック」の方が面白かった。



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021 スリーマイルアイランド―手に汗握る迫真の人間ドラマ

1979年に発生した、スリーマイル島の原子力発電所事故を描いたノンフィクションドキュメント。事故の被害はどの程度なのか、最悪の事態は起こるのか。メルトダウンまでの余裕はどれだけあるのか。前例のないトラブルから、地域住民をいかに守るのか。電力会社、保安協会、業界団体、政府、それぞれの立場から最善を尽くすべく、走り回った4日間を描いている。

訳者の序文には、手に汗を握るおもしろさで、全部読む前に翻訳の権利を得るべく交渉を始めた、この本は映画化されるべきだと信じている、と書いてある。しかし残念ながら、俺にはそうは思えなかった。

根本的には、ドキュメンタリーというよりも、報告書のような書き方で進んでいくからだろう。少ないページの間に膨大な人物が登場し、場所が飛び、そして時間軸も入り組んでいる。何がどう進行しているのか、誰が何を考えてどう動いているのか、それを把握することすら容易ではない。

その上、コレは訳者の問題だろう。日本語として不自然な箇所も多く、悪文も多く、読むのにかなりの体力を使う。事故3日目までは読んだが、一応の収束となる4日目は、とても読めなかった。

全部読まずして書評を書くのはルール違反である気もするが、最後まで読めなかったということを、この本の評価とさせてもらう。



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020 マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

10点満点で、8点。

日本語版では省略されてしまったが、原題のサブタイトル "The art of winning an unfair game" の方が、より内容をよく現している。資金力の差に関係なく、同じ土俵で選手を集めて戦わなければならない、メジャーリーグという unfair game に勝つために、ビリー・ビーン率いるオークランド・アスレチックスがどういう戦略を採っているのか、ルポルタージュの形で著した本。

「打率に意味はない、重要なのは出塁率だ」「守備力は試合にほとんど関係ない」「投手の力量は、与四球、奪三振、被本塁打の3つでほぼ完全に評価できる」など、これまでの常識を大きく覆す考え方。「貴重なアウトをむざむざ提供するバントは意味がない」「失敗する確率が3割もある盗塁は、試みる価値がない」など、戦術面でもこれまで接してきたあらゆる報道、野球人その他のコメントからも大きくかけ離れている。

それでいて予測通りの成績を残し、年俸差に反比例する勢いで勝ち続け、それなのに未だこの戦略が過小評価されている(真似をする球団がほとんどいない)この不思議。どこも真似をしないからこそ、unfair game に勝ち続けることができるのだろうが。

プロ球団の戦い方としては、ノムさんの本が面白くていくつか読んだが、ビリー・ビーンの考え方はおそらく対極に位置するのだろう。ノムさんの基本スタイルは「戦術で戦力を補う」だが、ビリー・ビーンの考え方は(大きな影響を与えた、ビル・ジェイムズの考え方というべきだろうか)、監督は余計な采配をしない方がよいというもの。盗塁、バント、左右の相性などほとんどすべてが勝率に悪影響を与えていると言われれば、監督のやることはほとんどなくなってしまう。

どちらの考え方も面白い。しかしいずれの考え方も、限られたチーム/人物しか結果を出していないので、評価が分かれてこれからもゲームを楽しませてくれるのだろう。

カープはこのスタイルで選手を集めてくれないかな。それで、鋼鉄の赤ヘル軍団が帰ってきたら面白い。



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019 オールド・ルーキー―先生は大リーガーになった

10点満点で、7点。

35歳という史上最年長でメジャーリーグデビューした元メジャーリーガー、ジム・モリスの半自伝。プロを目指すが挫折して、ハイスクールでコーチをしていたら生徒たちから励まされ、奇跡のプロ入りを果たした男の実話。

感動的な話ではあるし、実際そういう感想を持つ人が多いから映画にまでなったのだろうが、今ひとつ素直に感動できないところがいくつか。

おそらくは実際の話なのだろうが、ベースボールではプロでこそ挫折したものの、そこまではどこでプレーしても頭二つ以上抜きんでた実力を見せつけるところ。ベースボールだけではなく、フットボールでもバスケットボールでも、十分以上にプロを目指すことができる実力を持っていること。夢を諦めて大学に進学すれば、仕事をしながらの学業でも優秀な成績を収めること。とにかく、有り余る才能に恵まれながら、メジャーリーガーを目指したことのみによって苦労してしまった(それでも最後には夢を叶えた)、自慢話に思えてしまう。

それよりも本書で興味を引かれたのは、終身雇用の日本とは違うことから、モリスも妻も職を転々としながら、それが特別なことではないように書かれていること。実際にそうなのだろう。だから、35歳という年齢でハイスクールのコーチという職を捨てて再びメジャーリーガーを目指すことになったとき、妻が応援してくれたのではないだろうか。再び夢破れたところで、もう一度職を探せばいい(そして、その年齢で職を探す人が普通に存在する)環境だからこそできた芸当である気がする。

本筋とは違うところを面白がって読んでしまった。



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018 デビルドッグ

10点満点で、7点。

陸自の空挺隊からアメリカ海兵隊へ入隊し、イラク戦争を戦った著者による手記。一兵士の視点から見たイラクがリアルに感じ取れる。一度殺し合いをした相手に武器を与える割り切れなさ、そして自分たちが治安を守っているという誇りと現地人に対する不安。きれい事ではない、本当の戦場が読み取れる。高部正樹氏の著書よりも、部隊全体のことなども書いてあり、状況がわかりやすい。もっとも、正規兵の著者と傭兵の高部氏とでは、視点が違うのも当然だが。

個人的に一番面白かったのは、ブートキャンプのくだり。空挺出身の著者が音を上げる過酷さ、追い詰める鬼教官。確かに、あんなところで教官をやってたら、50過ぎたってビリー隊長みたいな体だよなあ、と妙な感心をした。

敵兵を殺害する描写などもあり、そういうのが苦手な人には向かないだろうが、戦場の空気を感じ取ってみたい人にはお勧め。



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017 透明な力―不世出の武術家 佐川幸義

史上最高の武術家との評価もある、佐川幸義先生について書かれた本。口伝というわけではないようだが、佐川先生が話されていたことを、細かく書き現している。以前書評を書いた吉丸慶雪氏もそうだが、よく話されたことを書き残しているものだな。本気で武術を志す人たちは、皆そうなのだろうか。だとしたら、俺がいつまでたっても上達しないのも当然と言うことか。

しかし、末席とはいえ合気道を志す身からすると、翁先生について「植芝は合気がわかっていないから、愛だの宇宙だのといってごまかしている」と言われるとちょっと切ないものがあるな。佐川先生に言われると、合気道側は返す言葉がないのだろうか。

しかし、残念なことに、俺が知る限り佐川先生の映像は残されていない。そして、俺が知る限り、佐川先生が「合気ができている」と認めた人もいないから、先生の言う本当の合気を目にする機会は、今後もないかもしれない。惜しい。

武田惣角氏の逸話についても詳しく書いてあって、こちらもかなり面白かった。



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016 「話の通じない相手」への頭のいい対応術

10点満点で、7点。

「話の通じない相手」を10のパターンに分類して、その主張と依るべき根拠、そしてそこを崩すにはどうすればよいか、考察した本。

注意すべきは「対応術」であって、「説得術」あるいは「論破術」ではない。どういうことかというと、「話の通じない相手」を、「議論の本質を見失わせ、話題をすり替える」相手としてとらえていると言うこと。なので、主題は「話題を本筋に戻す」ことにあり、そこで有意義な議論ができればそれでよしとしている、ように読み取れた。

意外に思われるかもしれないが、俺は「議論に勝つ」ことには重要度をあまり感じておらず、「深い議論をする」ことに価値を感じているので、こういう本は勉強になる。

図書館で借りて読んだが、定期的に読み返して、自らの血肉にするべき本である気がする。いずれ、買おう。



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015 ドキュメント 戦争広告代理店

10点満点で、8点。

ボスニア紛争(ユーゴスラビア内戦の一部)を、「ヨーロッパの裏庭でやっている、金持ち同士の小競り合い」から「世界的に注目される重大な内戦」に仕立て上げ、一方的な「セルビア人=悪」のイメージを植え付けることに成功した、PR企業の影響力に着目して描いた逸品。

事の善悪について論評を控え、いかにPR企業がクライアントのために動き、その結果マスコミ、政府、国際世論、国連を巻き込んだうねりを作り上げていったのか、よく取材されている。

合法的に、決して非難されるような手段を執ることなく、また情報を隠すこともなく、クライアントに有利な状況を作り上げていくその手法は、まさにプロフェッショナルの仕事といえる。カナダの国民的英雄を平和の敵に仕立て上げ、国連史上初の事務総長再任を妨げたその手腕が、セルビア側に雇われていたらその後のボスニアはいったいどうなっていたのだろう。

日本にこのような企業がなく、また日本人にはその重要性が認識されていないPR企業の影響力がいかにあるか。マスコミの影響力は確かに大きいが、そのマスコミを誘導することでどれだけの成果を上げることができるのか。著者はマスコミの側であるだけに、逆にその効果を後から冷静に計ることによって、読者に淡々と訴えかけている。

秀逸なドキュメント。NHKは、やはりこうした取材をさせると、民放が束になっても適わない作品を作り上げる。それがどうして、特定アジアに対してだけは力を発揮しないのだろう。



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014 合気道の奥義―呼吸力・勁力を体得する!

良否を云々できる身ではないので、評価しない。

著者は、元佐川幸義先生の高弟。後に佐川先生と袂を分かってはいるが、文章からは佐川先生を尊敬してやまない気持ちがにじみ出ている。しかしまあ、その武道歴と本書の記載内容からすると、タイトルは「合気道」ではなく「大東流」とするべきではなかったかな、と思ってみたりする。

内容は、佐川先生の教えを著者なりにかみ砕いた武道理論、それを科学的な視点から記載することに重点を置いている気がする。内容の良否については、俺は論評できる存在ではないので、コメントしない。もっと自身が稽古を積まないと。

口伝や聞き書きとして紹介してある、佐川先生の言葉が重い。

息子が産まれてから半年以上、稽古に行ってないな。早く稽古に復帰したい。



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013 宇宙旅行ハンドブック

10点満点で、6点。

タイトル通り、本当にハンドブック。著者は民間の宇宙旅行会社社長。
NASAなどのパイロットになるために必要な要素から、民間人として宇宙旅行するための手段、その方法。あるいは必要な知識、機器類の操作、非常時の対処法まで、本当にその辺の旅行ガイドブックと同じノリで書いてある。

こういう、冗談だか本気だか判らない本って好き。実用書のように思えるけど、さすがにまだ実用書じゃないよなあ。

なんだか、本当に宇宙旅行がしたくなってきた。



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012 どこへ行っても三歩で忘れる鳥頭紀行—くりくり編

10点満点で、5点。

個人的な好みだろう、やはり西原とコンビを組んでいる人の文体は好きになれない。
漫画だからあのスタイルが面白いのであって、文章にするとただくだらないだけだなぁ・・・としか思えない。

サイバラの漫画がなければ、たぶん半分も読めなかった。



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011 マジックの心理トリック―推理作家による謎解き学

10点満点で、5点。

残念ながら、タイトルと内容が合っていない。

マジックの多くは心理的な盲点を突いているのだ、という主張は伝わってくるが、それはマジックに興味を持つ人なら、ある意味常識だろう。問題は、どういう盲点を突くかと言うことだが、具体的な話には触れていない。

文庫で出す以上、踏み込んだことは書けないだろうことは容易に想像できる。しかしそれにしても、タイトルに「心理トリック」と書く以上、もっとそれに触れるべきなのではなかろうか。

反面、クラシックフォースについては解説があり、この内容の本でこれを書いていいのかという気になったり。全体的に、スタイルが中途半端。

市販のマジックについては、原理を含め一切の仕掛けを書かないという姿勢は一貫してあってそれでよい。しかし、こんなマジックがあると紹介しかけておいて、その現象も名称も紹介しないのはいったい何がしたいのだろう。書けないなら書けないで、興味を持った人が自分で調べることが出来るようにすればよいのに、いったい何が不思議で巧妙だと伝えたいのか、さっぱり判らない記述がいくつもある。

文庫本で出すべき内容ではなかったのだろう。これが専門書の形を取っていて、その原理と応用例まで踏み込んでいれば、名著になれたのかも知れない。



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010 プロ野球よ!―浮上せよ「魅せる9イニング」

10点満点で、4点。

どこぞのスポーツライターとか、野球好きの芸能人が余技で書いた程度の本ならいい。しかし、新聞社の運動部記者が書いたにしてはあまりに表面的で、しかも日経の記者が書いたにしてはあまりに経済を知らなすぎる、そんな印象を受けた。

全編を通して流れているテーマは、盲目的といってもいいメジャー至上主義。その意味では論旨がぶれていないだけましかも知れない。しかし、メジャーと比べるにしても、日米の野球文化を比べるのではなく、「メジャーはこうやっているのに日本は・・・」と否定的な視点しか持っていない。

ここ数年で野球に興味を持ち、日本人が活躍するからメジャーを見る、半可通が通ぶって書いた、そんな気がして仕方ない。表面上のテーマは日本プロ野球の悪いことを指摘すると言うことだから、それはそれで一つのスタンスだろうが、「メジャーはこうなのに」しか論拠がないのは貧困すぎる。

あげく、改善策の提案については、頷けるものもあるが噴飯ものの話も少なくない。曲がりなりにも日経の記者が書いているのだから、せめて経済的な側面くらい、きちんと数字を上げて主張して欲しいものだ。「これくらいなら大丈夫」とか「きっとこうなるに違いない」とか、主観だけで主張している項目の多いこと。

繰り返すが、日経の記者が書いてこの出来。日経の記事そのもののレベルを疑いたくなった。



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009 アシモフ選集〈数学編 第1〉数の世界

10点満点で、9点。

図書館で借りて読んだ。まぁ、そうでもしないと読めない本だろうが。
アシモフ著、矢野健太郎訳という豪華な組み合わせ。しかし題材のせいか、原文のせいか、訳のせいか、平易な言葉を使いすぎているせいでかえって冗長になり、読みにくい。

数そのものについて自然数、0、負の数、分数、小数、無理数、虚数、無限と触れている(超越数についての記載はない)
数の概念を拡張するための説明として、うまく四則演算からべき乗、乗根、そして指数計算と対数について、話が無理なく展開していく。このあたりはさすがアシモフとしか言いようがない。

残念ながら俺の知的レベルが低いため、対数のあたりで読むのが苦痛になってはきた。しかし十分面白いし、開平算のやり方などは興味深く読めた。ただの四則演算にしても、その原理から解説してあるので、小学校の教師などが読むのに適しているのではないだろうか。むしろ、ここまで深く理解している教師がどれだけいるのか、不安にはなるが。

学生の頃この本を読んでおけば、数学の成績も不可から可くらいにはなったかも知れない。



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2008年10月17日金曜日

008 阪神大震災 自衛隊かく戦えり

10点満点で、8点。

阪神大震災のあと、自衛隊がどんな環境で人命救助活動に挑んだか、内部の視点から振り返ったもの。当事者であるが故の色眼鏡もあるのだろうが、いかに自衛隊が劣悪な環境で働き、いかに行政がその活動を邪魔したのかが、悲しいほど判る。

あれから10年以上が経ったけれど、いまだにこの国の危機管理意識の乏しさは改善されていないかと思うと、不安を通り越して呆れてくる。この本で指摘されていることのうち、いったいどれだけが改善されているのだろう。

こんな劣悪な環境で、国民のために働いてくれた、そしてこれからも有事や災害時には働いてくれるであろう、自衛隊に感謝。



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007 小説 あらしのよるに

10点満点で、7点。

図書館で借りて読んだ。絵本かと思っていたが、ノベライズもあったんだな。

意外によい。元々は絵本で、子供向けの話だから、大人の目で見ると気になるところはいくつかある。でも、大きな疑問点はだいたい説明されていて、素直に読んでいく分には違和感を感じない作品に仕上がっている。

友情というものの本質を問いかけているような、そんな気がする。その意味では、中学生~高校生くらいの世代が読むべき作品なのかも知れない。

何より、素直に「いい話だ」と思えた自分がいることに少し驚き。まだ汚れきっていなかった。



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006 あの頃の未来 - 星新一の預言

10点満点で、6点。

貪るように多くの作品を読んだ、星新一。
その作品と、作品に込められた警句(を、著者なりに解釈したもの)とについて、現在の視点からコメントしたエッセー。

悪くはないけど、蛇足というか。

星新一の作品は、徹底的に無駄なものを排除して、また時代性からも切り離して作り上げられている。それに、余計なコメントを付けるのは、決して付加価値を付けることではない、と感じてしまった。

魚を食べるのに、刺身が最高の料理法ではないかも知れない。でも、一度刺身として作ってしまった魚を、塩焼きにすることは出来ない。そんな感じ。

こういうエッセーが好きな人も少なくはないのだろうが、俺の好みではなかった。



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005 アジアパー伝

10点満点で、5点。

サイバラの漫画を文章にしたらこうなるんだな、という読後感。文章で綴ったら、意外に面白くないな、とも。

共著だから面白い部分もあるのだろうが、サイバラの漫画はそこだけ抜き出しても面白い。でも、鴨志田氏の本文だけだったら、たぶん最後まで読むことはなかっただろうな。

これは好みの問題なんだろう。俺は、下手な文を読むのが嫌いなのかな。自分が書く文章の下手くそさは棚に上げておいて。



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004 アジモフ博士の聖書を科学する

10点満点で、7点。

図書館で借りて読んだ。
俺は基本的に無宗教だからよく知らないが、創世記を題材にしているから、たぶん旧約聖書についての本だろう。

内容は、聖書の一節ごとに、その意味と他編との関連、そして科学的見地から見た検証を加えている。宗教的な精神を肯定するでも否定するでもなく、淡々とアシモフ一流の文章で綴っている。

科学的な分析は多岐にわたり、化学、生化学、物理学、地学、言語学、歴史など、さすがアシモフとうなるほかない。その上聖書の他編や他宗教との関連にも言及しており、本当に個人の著作なのかという気がしてくる。どえらい作家だな。

知的好奇心を満たすには非常によい。ただし、特に日本人にとっては、それ以上のものではない感があるので、読者は選ぶかも知れない。



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003 ザ・ジャストインタイム

10点満点で、9点。

世界に冠たる日本初の効率的生産手法、トヨタかんばん方式について、小説の手法をとって解説した本。去年11月頃買って一度読み、最近また読み返している。

買ったときは、「ザ・ゴール」の系列に属する本かと思っていたが、そうではないようだ。「ザ・ゴール」が経営に深く関わる話なのに対して、こちらは徹底的に現場・現物主義を標榜している。

「大事なのは人なんだよ」と繰り返し出てくるとおり、現場改善に対する人間関係の歪みについて重点をおいた描写をしており、その分登場人物の人間関係を常に頭に入れておかないと、なかなかわかりにくいところもある。1回目ではぴんと来なかった部分も、2回目に読み返してみると、何を言っているのかようやくわかったことがいくつもある。たぶん、3回4回と読み返すほどに、内容が理解できてくるのだろう。

これを読むまで、俺は根本的にかんばん方式というものを誤解していた。「ジャストインタイムで欲しいものが納品されるよう、下請け業者に在庫を持たせて自社の在庫を削減しているだけだろう」と。そう考えている人は俺が思うより多いのか、わざわざ「業者が持っている在庫リスクは価格に跳ね返っていると考えたことはないのか」と、登場人物の一人を激しく叱責することで否定している。

得るところは多い。小説形式だから、実際の改善がどういう流れになるのかわかりやすいし、人間関係の問題解決についてもある程度の考察がしてある。「ザ・ゴール」とともに、多くの人が読むべき本だろう。

大野耐一氏の著書も読んでみようかな。そんな気になった。



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002 カラシニコフII

10点満点で、8点。

世界中の紛争で活躍する、自動小銃カラシニコフについて、見事にまとめ上げられたルポルタージュの続編。

前作はほぼアフリカについてのみ触れていたが、今作は南米、中東と紛争地帯を追っている。そして、密売ルートを追求して、アメリカの銃砲店、そこから悪名高きノリンコ(中国北方工業)にまで踏み込んでいる。

前作同様、これだけ見事な取材レポートを、朝日新聞記者が作成して朝日新聞社が出版したという事実がまず俄には信じられない。政治色を極力排した文章になっていることも特徴で、あくまで現状をありのまま伝えることに主眼をおいている。そのため論点がぶれることなく、話題が飛んでも混乱することはない。

前作の衝撃が強かったのと、せっかく踏み込みかけたノリンコについて「取材拒否された」だけで話題を終えてしまっているので、星4つ。しかし、前作と合計すれば星10個でも文句なし。両方読むべし。



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001 カラシニコフ

10点満点で、8点。

朝日新聞と言うだけで、内容に疑問符を持っていたが、この本は素晴らしい。余計な感情や政治信条、主義主張を極力排除して、慎重かつ淡々とした記載が続く。こんなレベルの高い内容が、朝日新聞に連載されていたなんて、にわかには信じられない。

内容は、銃そのものよりも、銃によって振り回されるアフリカの内情を追ったルポと言った方がいい。その辺のアフリカ紹介本にはまず出てこない、治安の悪さとその様相が克明に描かれている。もちろん銃そのものに対する詳細な記述もあるし、ミハイル・カラシニコフ本人へのインタビューも掲載されている。

平和とはいったい何か、考えさせられるいい本だ。これは人にお勧めできる。ただし、残酷な現実を淡々と描写している箇所も少なくないので、そう言うのが感情的に受け付けられない人には辛いかもしれない。



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