2008年10月19日日曜日

027 戦争における「人殺し」の心理学

10点満点で、9点。

興味深いタイトルに惹かれて読んでみたが、まさに「心理学」の本だった。人を殺すと言うことはどういうことなのか、殺したことのある人物、殺せなかった人物などから、膨大なインタビューや資料を基に考察している。

本書は決して戦争を肯定するわけでも否定するわけでもなく、淡々と「兵士として敵を殺害すること」について、殺害に至るまでの心理的な障壁と、殺害したあとの心の傷について分析している。

結論だけ読むと空虚に思えるかもしれないが、人間の本能としては、「殺すくらいなら殺された方がいい」とすり込まれているのではないか。第二次世界大戦では米兵の発砲率(殺傷率ではない!)はわずか15〜20%程度でしかなかったし、組織的に行動していないときは敵兵を見逃したという実例が山のように出てくる。その後の研究によりベトナム戦争での発砲率は90%を超えているが、一人殺害するのに5万発以上の銃弾を必要としている。それは武器の性能が悪いわけでも遠距離での銃撃戦が多かったからでもなく、「わざと外す」兵士がいかに多かったかを物語っている。

そして、不幸にして(そして任務に忠実であるが故に)人を殺めてしまった兵士の心の傷についても深く調べてある。特にベトナム戦争についてはかなりのページ数を割いており、国のためと信じて戦場に赴いた兵士たちがどんな仕打ちを受けたのか、痛々しい事実が書かれている。

「軍人として、兵士の任務を果たそうとしない彼らに怒りを覚える」と書きながらも、「本質的に人を殺そうとはしない、自分が殺されるリスクを負っても発砲しない、そういう人類を誇りに思う」と、複雑な心境をのぞかせるコメントが、著者の心境を雄弁に語っているのだろう。

最終章の「アメリカの殺人」で触れられた、映画やゲームにおける暴力描写がいかに殺人への抵抗感を和らげているかについては(ベトナム戦争で発砲率を上げるために行われた教育と本質的には同じことだ)、考えさせられるものがあった。薄弱な根拠を元に「ゲーム脳」云々語られても聞く耳を持てないが、この本には説得力がある。

500ページほどの本だが、6時間近くかけて読むことになった。時間をかける価値はある。



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